猟の神に御幣をささげ、豊猟を祈願する(宮崎県木城町中之又)
インヤマでは、一方が険しい山で詰まっている地形がよく、猪が下さがりするとカリンドはシタマワリで獲る。さらに下方に追いやって、渓谷の流れに追い込む。猪は石ころや砂利の上では動きが鈍く、水にはまったら猪の頭めがけて石を落とす。一瞬気を失なったところを処理する。新谷さんはいう。
「水ジシの獲り方では、後足を握って水につけても頭部をあげてしまうので、しかも水中では腰ナタを使うのも容易でないから、腹部が上向きになるようにひっくり返すのが要領である。水の比重を利用するので、たとえトマジン(大猪)でもやり易い」
と。また、手負いの猪は鉄砲では仕留めにくくなるが、インガリだと囲みさえすれば、かえって捕獲しやすいともいう。鹿狩の場合は、長距離を犬に追わせて川(水辺)に追い込めば、抵抗なく捕獲できるという。
ナカンモン(内臓)は、心臓を除き犬に与える。山の神には兼ねてから豊猟と安全を祈願しているので、捕獲後の儀礼として改めて赤飯・雑魚・神酒などとともに、心臓を半分ほどに切って供える。序(つい)でに、九州中央山地の山麓に伝える捕獲儀礼については、柳田国男も「後狩詞記(のちのかりことばのき)」に事例を紹介しているが、ナナキレザカナ・コウザキなどと称し、心臓や肝臓を山の神への献饌(けんせん)とする習俗がある。
鰐塚山を主峰とする諸山に生息する猪も、飫肥杉の植栽が進み、伐採期を迎えるほどに大きくなると、平地に下ってくるようになった場所もある。