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いずれの猟師も「シシトリは犬で決まる」という。彼女も例外ではなく、その勇士ぶりを謙虚に語る。「犬は雑種がよく、洋犬は長追いするばかりで効率はよくない。必ず犬仲間で中心になる犬が出てきて、それぞれの犬によって猪のせめ方が違ってくる。経験を重ねる度に、犬は要領を覚える」と。彼女自身もそうだが、猪の牙にかかって切られたりすると、それなりの知恵が働くようになり、工夫をこらすようになるという。

経験を重ねた筋のよい犬は、猪と体を並べて闘う。犬はオジシとメジシの匂いをかぎ分け、メジシだと喰いつくのも速やかで離すことがない。狩手は犬の吠え声および犬の動きによって、猪の所在をつきとめ「それ!いかんかァ」と犬と自分を鼓舞(こぶ)する。犬がオイタテはじめて一時間もたつと、犬の動きが鈍くなる。猪が百キロに及ぶほどの大物となるとなおさらである。

ここで新谷さんの登場。猪が一瞬向こうむきになった好機をとらえて、すばやく走り寄ってまず猪の後足を両方握って、次に片方を自分の足で踏みつけ、腰ナタをとっさに抜きとり、猪の両脚のアキレス腱(けん)を切断する。それでも、猪は一〇メートルから二〇メートルは這いずって逃げようとする。犬は逃がすまいと猪にぶらさがる。弱ったところで頚部(けいぶ)にナタを入れ血出しする。血がまわると肉質が落ち、膀胱が破れるとショウベンジシとなり、内臓は臭くて食べられない。

さらに女猪狩りは語る。「大猪になると、犬を無視して人間に挑んでくるので、まさしく真剣勝負。

 

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銀鏡神楽の狩り法神事「シシトギリ」。猪に追われると、木に登り難をさける(宮崎県西都市銀鏡)

 

 

 

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