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イメはカクラを取り巻く状態で、人の山道とウジが交差するような位置に鉄砲をかまえて立つ、これがイメ立ち。ようやく、「シシ狩り」の体制が整ったのだ。

突然、山の中で犬共が一斉に吠え始めた、イノシシを嗅ぎだしたのである。カクラ全体に緊張が走る。寝込みを襲われたイノシシ、しかし“大物”になると咄嗟には逃げずに、犬と対峙して逆襲のチャンスを伺う。犬も老練なのになると、シシと一定の間隔を置いてセコを勤める主人の発砲チャンスを作る。こうした一連の行動が、シシを「オこす」「タつる」と言う。かくて、その「吠えニワ」に間に合ったセコが「ズドーン」とやるのだ。

もちろん犬の勢いに驚き、ネドコを後に逃げだすシシも少なくない。これらは、概ねウジをたどって山中を逃げ回る。その後を犬共が「わんわん」吠えながら追跡する。いよいよイメ立ちが活躍する場面である。しつっこい犬の追跡をかわすためシシは別の山に移ろうと、林から出ようとする。ところが“猪突猛進”の例えなど真っ赤な嘘で、この際瞬時ではあるが立ち止まるのである、安全確保のため。しかしそこがイメの狙いどころで、発砲のベストチャンスとなってしまうのだ。

セコであろうがイメであろうが、こうして獲物を倒すと、その場で数発の空砲を撃つ。これはヤホコと言って、猟果を仲間に知らせるのを兼ねた、山の神への感謝なのである。

カノンシと呼ばれるシカの場合は、その狩り場はカヤなどの草原の方が多いようである。

 

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シシ焼き――割れ竹で焚き火をしながら毛をすっかり焼き落とす

 

 

 

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