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煮物 ぶなはりたけの蜂蜜煮

揚げ物 森のきのこの盛り合せ

御飯 むかご飯

デザート 勝栗の栗ぜんざい 以上

五年程前、郷土料理の勉強会を兼ねて、南郷村、椎葉村を訪ねた。南郷村では、地鶏とササガキ牛蒡を油でよく炒めて、水煮し、醤油だけで味付けする「山地鶏汁」をおぼえ、時折お客様にもお出しして好評である。とぼしい素材を油炒めするひと手間から美味が生まれたといってよい。昔は醤油も貴重品ゆえ、ハレの食事であったようだ。

椎葉村では向山日添にある民宿“焼畑”に宿をとり、料理上手な椎葉クニ子さんの手料理に出会えた。主人の秀行さんには焼畑の現場に案内してもらい、焼き畑農法は一年目はソバ、翌年からアワ、小豆、大豆の輪作、五年目以降は自然に返し、約二十年間地力の回復を待つとの説明であった。山野草に詳しいクニ子さんは『おばあさんの植物図鑑』『おばあさんの山里日記』(葦書房)なる共著本がある。私の愛読書であり、料理書である。

ここで会得した料理は「ソバわくど汁」と「ソマゲ」。ソバわくど汁は味噌仕立てで、冬は猪、ない時は鶏肉で出しをとる。大根、人参、里芋、干し竹の子の具を入れ、ソバ粉を熱湯でソバガキして、スプーンでラグビーボール状に形を一定にして煮たった鍋に入れると出来上り。わくどとは耳川流域では蛙のことをさす。そば団子を蛙とするユーモアにあふれた銘品だ。ソマゲは手近な野菜類を塩味で煮て、ソバ粉を入れて練り上げたもの。あたたかい内に食するが、残った時は弁当箱にとり、冷めたものを食べやすく切り、炭火などであたためて食する。奥深い味わいだ。

 

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「やまめの星」とホテルフォレストピス

 

椎葉竹の枝尾集落には鯨皮「コロ」を使った煮しめがある。ハレの食事にはかかせない一品で、希少価値の品薄な昨今でも、根強く伝承されている料理法のよし。この地域の人は体が大きいとの評判もあって「尾前の着だおれ、枝尾の喰いだおれ」の俚言あり。

椎葉名物に菜豆腐がある、春は桜に菜の花、初夏はヤマフジ、秋は菊入りの花豆腐だ。大豆が不作の折、野菜で豆腐を水増ししたのが始まりらしい。五ヶ瀬、椎葉、西米良、九州中央山地に共通する食文化の特徴として、灰汁(あくじる)、ニガリ、麺の上手な使いかたがある。豆腐作りに本ニガリ、灰汁はあく巻作り、コンニャク作り、そしてワラビ、よもぎのあく抜き、干し竹の戻し汁にと利用範囲が広い。自家製味噌は味噌汁は元より、豆腐の味噌漬、昆布、野菜類の味噌漬も上手で美味しい。シソ千枚漬は名物といえる。

平成十一年五月、西米良村に温泉館が生まれる。ここは婦人会の活動が盛んで、祖母の味、母の味「ふるさとの食文化」を出版している。この温泉館では、単なる食事を提供するのではなく、西米良に伝承してきたふるさとの味をとの姿勢と聞く。

ここには糸巻大根なる地野菜がある。とれる食材、料理法も五ヶ瀬、椎葉とも共通し、養魚場、柚子加工場の地の利もあり「食は西米良にあり」の心意気で交流人口をふやしたいものだ。

私はブナ帯食文化の世界に一歩近づいた。

<料理人>

 

 

 

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