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奥日向・山の料理 森松平

 

宮崎県は、東部は大平洋に面し、北部と西部は、北東から南西に走る九州脊梁山地、南西部は霧島火山群にかこまれて、冬でも温暖な気候である。

そして、宮崎には五つの大きな川が流れている。北から五ヶ瀬(ごかせ)川、耳川、一ツ瀬(ひとつせ)川、大淀(おおよど)川、広渡(ひろと)川である。九州中央山地を源流に西から東へと流れ、日向灘へとそそぐ。ミネラル、プランクトンを多く含んだ川の水は、海草、藻類をはぐくみ、沿岸部に棲む魚貝類を育て、豊かな海を約束してくれる。最近「豊かな森は海の恋人」の言葉をよく聞き、水産関係者の植林事業も活発化しつつある。

ところで、温暖な宮崎にも、北海道、東北の豪雪地帯とも見紛う高冷地がある。熊本県境の五ヶ瀬町、椎葉村、そして西米良(にしめら)村だ。

五ヶ瀬町には根雪が三月まで残る「日本最南端の向板山スキー場」が存在する。

その昔、人々は海岸寄りではなく、山々の尾根道を歩き、湧き水に恵まれた尾根近くの緩斜面に暮していたという。五ヶ瀬、椎葉、西米良には今なおこうした住居、集落が数多く見られる。

つい先日(平成十年十一月十日〜十一日)、奥日向の味めぐりと題して、私が講師を務める料理教室の皆さん(二二名)と熊本県高森町の「高森田楽保存会」、五ヶ瀬町鞍同の「やまめの里」、延岡市岡本の「あゆやな」を食べ歩いた。

高森のお目あては、九州山地に伝承された「鶴の子」という土地固有の里芋を賞味することであった。収量が少なく、経済効率の悪さゆえ、年々生産量を下げているとのことだが、五ヶ瀬町の朝市で、老夫婦が商なっている場面に出会い、どっこい根強く生残る気配を感じた。

「やまめの里」に着くと、主人、秋本治さんの出迎えをうけ、

「紅葉の秋になると栗の実を拾い、自然薯などを採集する。また朽ちたブナに自然発生するムキタケなどのキノコ狩りをしたり、密蜂を採集する。冬は、雪の山に出かけて猪や鹿、雉や山鳥、理やムジナ、兎、ムササビなどの猟を行う。鉄砲による猟以外にも“わな”を仕掛けて、とった獲物は冬の貴重な蛋白源です。雪が融けて春になるとフキノトウに始まり、タラの芽、ウド、ゼンマイなど無数の山菜が芽を出し、森の生命みなぎる山菜が食卓を賑わせます。近くの渓流では、イワナ、ヤマメが泳ぎ、釣りや金突き漁、ウケ漁などを行います」

との説明を受けた。秋本氏の運転で向板山スキー場までバスで行き、五ヶ瀬川源流の湧水場、ゴボウ畠(オタカラコウ)を見学し、霧立越えの原生林に入り、ブナの実を拾い、ブナ、ミズナラ、ヒメシャラの大木を初めて目にすることであった。

私は常々、宮崎の食の恵みは「黒潮」「照葉樹林」にあるとの持論であったが、秋本氏の語る「上流文化圏、ブナ帯食文化の恵み」に目からウロコの落ちる思いであった。この地域には縄文の時代からつづく自然を敬い、自然の再生を願う心構えがあると知った。そうしたことから、神楽が盛んな理由も、猪猟の儀式がある事も理解できそうだ。とにかく森の掟や作法はしっかり受け継がれ、生活の一部は狩猟採集生活であるというこの地域固有の文化は秋本氏をはじめとする有志の力で守りつづけて欲しい。

「やまめの里の献立」(十一月十日夜)

お通し ぜんまい、自然薯のとろろ

前菜 ヤマメのの甘露煮、ヤマメの昆布巻、ヤマメの卵

珍味 蜂の子の油炒め、まむしのあぶりもの、やまめのうるか、岩茸の酢あえ

吸物 猪汁(大根、椎茸)

刺身 岩魚の洗い(わさび添え) 鹿のさしみ(生姜醤油)

焼き物 やまめの竹の皮つつみ(柚子味噌入り) やまめの串焼 塩焼

酢物 尺やまめの冷くん(酢味噌添え)

 

 

 

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