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幾度目かに、ようやくしょうごん殿は納得し、「しょうごん殿の舞」が舞われて、舞い収めとなるのである。しょうごん殿の言葉を伝える役を務めるのは、長老格の祝子(ほうり)で、「太夫殿(たゆうどの)」と呼ばれる。

高知県物部村には、「いざなぎ流」という呪術的祭儀が伝わっていて、そこには「大将軍」と呼ばれる祭祀がある。神楽の「神屋」のような飾りものを立て、やはり御幣を差した徳利を用いて祈?をおこなうのである。物部の呪術者も太夫殿と呼ばれる。古代中国で発生し、アジアに分布した祭祀芸能が、ここ九州山地にはいまだに伝承されているのであろうか。尾手納地区に隣接する不土野地区に伝わる不土野神楽にも「しょうごん殿」があり、ここでは、お櫃を抱えた神官姿の太夫殿が、村人と問答をする。神楽の「しょうごん殿」や物部・いざなぎ流の「大将軍」が、遠くアジアの芸能と起源を同じくしているのではないかと空想することは楽しい。

不土野地区は椎葉から五家荘へと越える峠の東側にあり、尾手納地区は、椎葉村の中でももっとも奥まった場所にある。軒の低い民家が深い山に抱かれて点在し、その家々が、回り持ちで神楽宿を務める。終夜、舞い続けられた神楽は、朝日が村を照らすころ、「火の神舞い」が舞われ、神降ろしの舞が舞われて終わる。参加者は、静かに山中へと帰って行く。そこは、九州山地「山人」の痕跡が今なお残る村である。

<由布院空想の森美術館館主>

 

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椎葉村不土野神楽のしょうごん殿

 

 

 

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