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トウバとケベスの戦いは三度繰り返される。ケベス面は、黒っぽい茶色をした不気味な面である。ケベス役のトウバは、この面を被った途端、自身に神が宿ったことを実感するという。ケベス神が火を奪うと、それまで火を守っていたはずのトウバは、自分たちが持つ羊歯(しだ)の束に火をつけ、猛然と村人や参拝者を覆う。観客は悲鳴をあげて逃げ惑うが、その火の粉を浴びると無病息災が約束されるという。この不思議な祭りの起源はまだ分かっていない。

ケベス祭りの行われる櫛来浜の隣の岬に小熊毛(こくまげ)という地区があり、そこには「山人走り神事」が伝わっている。この山人は、鼻高の猿田彦である。早暁、まだ明けやらぬ山に入り、山中の祠の前に猿田彦の面(山人面とも呼ばれる)が置かれ、神事を行ったあと、里に下り、榊に猿田彦の面をくくりつけて、集落を巡る。これが山人である。山人は、ゆっくりと歩きながら、シトギと呼ばれるおこわ飯を里人に振る舞う。ようやく夜明けを迎えたばかりの村に、山人の「ウォー、ウォー」というおらび声(叫び声)が響く。山人は、浜に近い日吉神社に着くと、神社本殿に置かれている神輿を守護する位置に山人面を置く。翌日、神輿は集落を巡る。以前はにぎやかに神楽なども奉納されたらしいが、今は途中のお旅所でかたちばかりの巫女舞いが奉納されるだけの寂しい祭りとなっている。

国東半島のケベスは海から来る神であり、山人は山から来る神である。

 

山人の痕跡を辿る

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