山人の痕跡を辿る 高見乾司写真・高見剛
◎山から来る人◎
山壁に刻み込まれたような谷を溯って行くと、その流れはなおも細くなり、やがて黒々とした山塊に刻み込まれる。つまり、そこがこの谷の源流部である。水は、山脈のそこここから湧き出て、沢となり、谷となって流れ下るのだ。
沢沿いの道を幾曲がりも曲がって、さらに登りつめると、その道はついに行き止まりとなった。すでに舗装された林道は尽きていて、そこは石ころや雑木の枝などが散乱し、藪を分ける土の道であった。愛用の四輪駆動車「トヨタRAV4」といえども、ここから先は進行不能であった。
私は車を停め、行く手を覆う分厚い照葉樹の森と、重畳と連なる山の重なりを見つめた。遠くに、水の音が聞こえた。そこがまた、もうひとつの沢の生まれる場所であるらしかった。
沢に沿って、人が一人歩けるほどの道があり、その道は、雑木林の中へと続いていた。この村の村人が通う山道であった。道の脇に一本の大きな楓の木があり、天辺付近が真っ赤に紅葉していた。そこは、暖かな午後の日差しが当たる場所で、陽光を受けて紅葉はひときわあざやかであった。