三毛入野命に誅せられる鬼八木彫(宮崎県高千穂神社殿)
散りはじめた山桜に春の嵐は容赦なく吹き荒れる。花びらは生き物のように逆巻き、吹き上げられ、さながら桜花浄土の観を呈する。
さとちかき二上山(ふたがみやま)は青くして
鬼八(きはち)が棲家(すみや)静もりてゐる
またの名を三千王と呼ばはりし
身軽に駈ける鬼八は男の子
西には阿蘇の山々、中央に高千穂の二上山(標高一○八○メートル)。山麓に住む人々は、気象から日々の暮らしまでを司る霊力を持つ御山として敬い、ひたすら折りをささげ続けてきた。
月形に藤の花房垂れさがり
鬼八はたちの夢追ふ夢を
数丈の柱状節理の崖(がけ)浮かべ
鬼八は聴きぬ河鹿の声を
雲海に夢の浮舟うかべては
阿佐良女(あさらめ)・鬼八冬をいざなふ
鬼八はその名を「きはちふし」またの名を「鬼八三千王」などと称せられ、中古の阿蘇や高千穂に君臨した土豪、あるいは土蜘蛛(つちぐも)などの諸説がある。