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山口……文化とか文明の繋ぎ手なんです。九段界隈は畏友坪内雄三の大著『靖国神社』が来春出るそうですから、期待しましょう。

木下……薬屋は子供相手にやたら景品を配るんです。町の薬局にもメーカーが景品をいっぱい持ち込んでくるんです。それから薬屋の店先には人形が立っている。上に乗ってお金を入れると動く動物や乗り物まであります。ほとんど遊園地と一緒です。薬のテレビCMもそうとういかがわしい。

山口……動く人形を店先に出すのは大阪ですね。動く蟹を看板にするとか、大阪は見世物の先進地域です。

木下……見世物で一番大事なのは、口上です。この口上をどういう人が務めたかというと、薬屋とか飴屋とか物売りの口上の技術を持っていた人たちです。

仮設性とモニュメンタリティの対比は分かりやすい図式ですが、もう一つ、馬鹿馬鹿しさというものがどんな線でくくられてきたかが重要だと思います。一方に馬鹿馬鹿しくないもの、つまりオーセンティクなもの、正統的なものが想定されるから、見世物が馬鹿馬鹿しいとか、いかがわしいからということで視野から外されてきた。

山口……外すものがなければ常設性の証明ができない。そういった問題でしょう。ちょうど日本の人類学者たちが声をそろえて、山口のは人類学でないといっているようなものですしかし今は、私のを含めてその馬鹿馬鹿しさを証明しなくてはいけない。今、私は何をやっているか(八月段階)というと、東京都と広島市立現代美術館が戦後の物語漫画展を打ち上げようとしていて、戦後の漫画について原稿を書いている。それで戦後の漫画を見てみると、馬鹿馬鹿しさといかがわしさで美術を圧倒してきた。

見世物は漫画ときわめて近い感覚のところにあって、時代の制度化した正論が察知しないところに、つまり理屈をつけないで感じて表現したという意味で、その時代時代の見世物です。馬鹿馬鹿しさの極限は、木下さんの移られた東京大学をはじめとする大学という装置そのものですが、これは木下さんが物と知のがらくた屋研究の一環として内側から考察の対象としていますから、また改めて話しましょう。

 

◎蝋人形館の見世物小屋◎

 

坂入……私は見世物の世界でメシを食ってきたから、口上もやっていましたが、三、四年でパンクしちゃいました。

山口……東京芸大の四年生の時に中退して蝋人形館をやっていたそうですね。

木下……今も蝋人形館をやっているんですか。

坂入……いや、今は飴細工をやっています。最初にお祭りに入ったきっかけは、東京芸大彫刻科の先輩に松崎次郎という男がいるんです、その男が嘘人形を作っていたんです。手伝っているうちに、旅に出ようかということになり、蝋人形の見世物小屋を始めたのです。彼は二十年近く蝋人形を作っていて飽きてしまったんでしょう。髪の毛を毎日一本一本作っていくわけですから。彼はじっと蝋人形師であることに飽きてしまい、秘密の蝋人形館という見世物小屋をやり始めたのでした。高市の時に、廻るのですが、毎年同じ物でお客から段々飽きられてしまいました。

木下……高知へ行きました時、ある個人が建てたという竜馬歴史館へ立ち寄りました。笑っちゃいました。竜馬の生涯がたくさんの蝋人形で展示してありましたが、最後になると『竜馬が行く』の原作者、司馬遼太郎の蝋人形があり、さらに歴代の高知県知事や高知出身の国会議員たち蝋人形があり、そのいかがわしさに圧倒されました。

坂入……日本の蝋人形館で、マダムタッソー以降では松崎次郎は第一人者です。

木下……最近にアメリカのスミソニアン博物館に幕末の生人形師松本喜三郎の完全な生人形が残っていることがわかりました。木でつくられていますが、人間の肌の質感が十分に表現されています。造けい性という点でも当時の見世物の水準は本当に高いです。

 

 

 

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