要は、旧中林綿布工場という歴史的資産を「白いキャンバス」と見立て、赤煉瓦の建物と広大な敷地をベースに町民みんなの手で、様々な可能性を描き、そして使いこなしていくという壮大で楽しい作業を行っていこうとするものである。この作業を通して、地域文化財としての赤煉瓦フィールドミュージアム(総称としてのイメージテーマ)が地域に根づくこととなると考えられる。
7-2 保存活用の基本方針
テーマに基づき、保存活用の基本方針について検討する。調査及びワークショップの議論から様々な施設利用の提案が出された。それを整理すると次のようになる。
(1) 地域的に求められるもの
1] 周辺地区として
中林綿布工場は歴史的にみて、近代以降は地域の暮らしそのものであった。また、その周辺地区は中家住宅に象徴されるように、熊取町の発祥と言える深い歴史の積み重ねがある地域である。このため、周辺地区では次のような施設となることが求められている。
・中林綿布工場の記憶をとどめることのできる施設。
・周辺の歴史・文化ゾーンに調和するとともに中家住宅と合わせ、その核となる施設。
・稠密な旧市街地にあって、防災的にも有用なオープンスペースと地域住民が気軽に利用し交流できる施設。
2] 熊取町として
熊取町は近年の急激な人口増加により、新住民が多くを占めるようになっている。その中で熊取町のアイデンティティといえる歴史的資産をいかにして継承していくかが大きな課題である。旧中林綿布工場は熊取町の歴史的地区の中核にあって、その保存活用に果す役割は極めて大きいものがある。熊取町にとっての役割には次のようなことが考えられる。
・熊取町の歴史と文化を継承し、かつ創造する事の出来る中核施設。
・熊取町の新旧住民及び町外住民とのふれあいの場となる中心施設。
・熊取町を代表する顔(誇り、アイデンティティ等)となる施設。
3] 大阪府及び近畿圏、全国的意義
大阪府特に泉州地域は近代産業(特に繊維産業)の発祥の地の一つであり、往時はのこぎり屋根の工場が林立していた。しかるに、今は残る工場は数少なく、日ごとに滅失しつつある現状にある。また、泉川地域は近年関西新空港の開港に伴い、地域開発が進むなかで歴史的資産を見直す気運が高まっている。全国的には赤煉瓦を活かした施設やまちづくりが進展しつつあるなかで、大都市圏の一画を占める当施設の価値は日増しに高まっていると言える。
・泉州の繊維産業の遺産を伝える事の出来る総合施設。
・大阪府の近代工業の歴史を紹介する結合施設。
・泉南地域における歴史・文化を核とする交流施設。
(2) 施設整備に伴う条件
保存活用に対して旧中林綿布工場が持っている施設整備の条件をまとめると次のようになる。
1] 施設整備の利点
当工場にはその建物、敷地、周辺環境等に次のような優れた利点を持っている。
・何といっても稠密な旧市街地にあって広大な(約15,000m2)敷地を有している。
・建物は赤煉瓦のこぎり屋根の歴史的形状を残しており、その保存状態もよく、かつ規模も大きい(約5,500m2)。
・全て熊取町の所有となっている。
・隣接して、重要文化財の中家住宅がある。