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第7章 提言(旧中林綿布工場の保存・活用に向けて)

 

7-1 本提言の基本的考え方とテーマ

 

(1) 提言の位置づけと考え方

約8ケ月間の調査及びワークショップによって、旧中林綿布工場の保存と活用についての問題点や課題、そして要望や提案等様々な意見が出されてきた。この調査の提言をまとめるにあたり、まず基本的な考え方を整理するものとする。

 

かけがえのない歴史的資産

大阪府泉州地域は、近代工業(特に繊維産業)の一大集積地であった。しかし、繁栄を誇った歴史的証人と言える「のこぎり屋根の煉瓦工場」が次々と滅失している現状が明らかになった。その中にあって、旧中林綿布工場は敷地、建物とも熊取町の所有となり、保存活用の展望が開ける条件を有している。

保存活用にあたっては、他の地域がどうだとか、他の活用事例がどうかという問題ではなく、地元(熊取町)の人達が自分達の地域文化をいかに守り育てていくかが大切なことである。それとともに、フォーラムで指摘されていたように、大阪府及び全国的に見ても「かけがえのない歴史的資産」であるということを考えておく必要がある。

 

守り、活用していく主体は地元及び熊取町の人達

本調査に参加した専門家や全国で旧中林綿布工場の存在を知っている人達は、口を揃えてその建物の素晴らしさを指摘し、保存活用の思いをいろいろと持っている。しかし、あくまで旧中林綿布工場の保存活用を行っていくのは、地元及び熊取町の人達である。その選択が極端なことを言えば、全ての建物を除去して新しい施設づくりとなるかもしれない。いずれにしても、本調査で培われたワークショップの貴重な経験を生かし、自分達の地域・施設を自分達で創り上げていくこと、その「上手なシステム」を作るのが、最も大切な課題と言える。

 

この提言を旧中林綿布工場の保存活用の一つのたたき台・出発点として

 

今回の提言は旧中林綿布工場の保存と活用に関する一つの考え方である。しかし、多くの人達の真剣な討議と幅広い調査・検討の結果として、導きだされた貴重な提言でもある。この提言では、あえて具体的な絵(平面図やイメージスケッチ等)は描かなかった。それは、ワークショップでいよいよこれから皆で具体的なプラン作りをしようというときに、変な既成概念を与えるということを危惧したことによる。

それより、今これから進めるべき重要な点についての提言となっていると確信している。その意味でこの提言はこれからの旧中林綿布工場の保存活用にあたっての出発点となることを一番望むものである。

 

(2) 旧中林綿布工場保存活用のテーマ

 

皆で守り、育て、活用する赤煉瓦フィールドミュージアム

8ケ月間に渡り、延べ人数200人以上に及んだワークショップの成果は次の2点に集約されている。

1] 保存活用に当たっては、計画策定の段階から住民の創意を結集し、住民が主体となって「使うこと」が、最も大切であること。

2] 一気に整備するのではなく、徐々に整備を進め、使いこなす中で次の整備目標を組み立てていくこと。

この2点は単純で当たり前のように考えられるが、非常に重要な視点であり、かつ、実施していくには難しい課題でもある。このテーマが本当に実現していけば、どの様な形となって整備されようとも、熊取町にとって素晴らしい施設となっていくと考えられる。

 

 

 

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