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(3) 登梁の勾配

登梁の上にはほぼ半間間隔に母屋が渡され、その上に垂木が架けられている。したがって、登梁の勾配はほぼそのまま屋根勾配とみてよい。表にみるように登梁の勾配は最大5寸5分、最小3寸5分で、4寸から5寸の例が多い。現在に屋根葺き材をみると、水林家・菊川家・正津家が鉄板葺きであり、水林家は鉄板葺きに合った3寸5分の小さい勾配をもっているが、残りの2住宅はほかの瓦葺き屋根の家と同じ程度の屋根勾配を有している。

(4) 前面柱の傾斜(「まえだれ」)について

大野の町家において、表側の柱が前方に少し傾いている例がいくつかみられた。地元ではこれを「まえだれ(前垂れ)」と呼んでいる。2次調査家屋では、久保家住宅、山崎家住宅、稲津家住宅、菊川家住宅、布川家住宅などがこの例である。

山崎家住宅では220センチで約5センチ、稲津家住宅では約250センチで5.5センチ程度傾斜している。柱を外側に傾けることは構造的に不利であるのに、なぜこのようにしたのか。「源平酒造」久保家のご主人の話では、「商売をしている家では、お客に対して頭を下げるという意味から家の柱も前方に傾けている」という。しかし、商売をしていない住宅にもみられ、これは理由になりにくい。むしろ、当時の町家の表構えの建具は、上げ下げの板戸であった。現在、こうした表構えを留めている例は見当たらなかったが、山田家住宅や高瀬家住宅では板戸が上方にあげたまま残されており、板戸はなくてもその溝が柱に残っている家が多かった。前面柱をこのように少し前方に傾けることにより、板戸が上げやすく、また落ちにくくなると考えられる。これが「まえだれ」の理由ではないだろうか。前面の柱を傾けている側は武生市の町家にもみられるが、同市では「まえだれ」の理由はこのように伝えられている。

 

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