2. 調査の概要
1) 調査の目的
越前大野市は「奥越の小京都」と呼ばれ、観光客も多い。天正年間に金森長近が建設した城下町の町割を現在もよく留めている。すなわち、東西、南北に六筋づつの通りを碁盤目状に通し、町屋敷きは通りに沿って奥に長い短冊状に割られている。これら通りに沿って、袖壁や格子をもつ、いわゆる伝統的な表構えの町家も数多く残り、江戸時代を偲ばせる通りの景観を生み出している。しかし、これまでに大野の町家や町並みについて充分な調査研究はなされておらず、これら町家や町並みがどのような特徴をもっているのか、あるいはこれらが歴史的または文化的にどれほどの価値をもっているのかなどについては明らかでない。しかも近年、これら町家が急速に消滅しつつある。本調査はこれら大野市の町家と町並みについて調査し、町家の基礎データを作成するとともに、今後の町づくりの基礎資料とするものである。
2) 調査方法・内容
本調査の経緯や内容、方法は次の通りである。
■平成10年4月00日 日本ナショナルトラストと若越建築文化研究所(代表国京克巳)が調査契約を結ぶ
■平成10年7月16日 大野の市街地の概略について予備調査を実施、同日大野市役所で打合せ
■平成10年7月22日・25日 1次調査を実施福井工業大学生とともに行う。南北筋の一番通りから五番通りと寺町通り、東西筋の正膳町通り・石灯籠小路・六間通りから八間通り・横町通り・大鋸町通りの各通り沿いの町家の表構えを調査し、伝統的な表構えをもっている町家あるいは部分的に増築や改造が行なわれているが、本体は木造の在来工法でつくられている町家265棟を第1次調査対象町家として選定した。
■平成10年7月28日 第一回調査委員会を開催 (大野市役所)
今回の調査の目的、具体的方法等について説明し、各委員からの意見を参考にしながら2次調査の方針を決めた。
■平成10年8月24日〜31日までの8日間
2次調査の実施
1次調査で選定した265棟の町家の中から、特に古い表構えをもつ町家を間口の規模や表構えの形式に着目しながら2次調査対象町家を選定し、武家屋敷を含む59棟を調査対象に選んだ。このうち調査を辞退された4棟を除く、55棟について2次調査を実施した。2次調査の内容は次の通りである。
■実測調査:34棟(内訳:町家31棟、武家屋敷1棟、近代建築2棟)
これらの各町家は原則として個々に平面図・立面図・断面図・配置図を採取したが、立面図や断面図の採取を省略した場合もある。そしてこれら各町家については、外観や内部各室の写真撮影も行なった。
■聞き取り調査…21棟
これら21棟については、本格的な建築調査は行なわず、実測調査の補足を目的とした聞き取り調査を主としている。
59棟の一覧表ならびに調査を行なった55棟を示したのが地図に示している。実測調査家屋と聞き取り調査家屋に色分けする。)
■町並みの写真撮影
南北筋:一番通り〜五番通り・寺町通り、東西筋:正膳町通り・石灯籠小路・六間通〜八間通り、横町通り・大鋸町通り沿いと、旧武家地にたつすべての家屋のファサード(正面)を35MMカメラで撮影し、調査時点における大野の町並み記録とした。
■土蔵調査
町家の調査とともに市街地にみられる土蔵についてもその分布状況や規模、形式などについて調査した。