第5章 衛星による海氷観測の現状と課題*
この章では、衛星による海氷観測の現状と課題について、海外の海氷機関を調査した結果をとりまとめる。これらの調査結果は、日本における海氷サービスの進め方に対して、重要な情報を与えることであろう。
5.1 海氷業務の背景
海氷の存在は、それが出現する国々と海域において、経済上大きな重要性を持つ。タイムリーな海氷の情報は、氷に覆われた海域の海上作業にとって欠くことができないものである。多くの国において、極地方の海上交通、沿岸作業及び漁業等の活動は、オペレーショナルな海氷監視と予報を確立させるための動機であった。
最も大変な海上作業は、世界の海洋の中で二ヶ所にある。季節的な海氷が航海に重要な影響を及ぼすカナダのセントロ-レンス湾とヨーロッパのバルチック海である。バルチック海の海氷シーズンは半年間続き、全積み荷(4億5千万トン;1995年)の約40%が冬の期間の取り引き高である。
極域における海運は、他の海域よりも高いリスクを持っている。それは氷原の存在、風に吹き流される氷の圧力、厳寒の孤立および充分な支援体制の欠如等による。また、北極を航海する者は圧力のかかった氷の峰に取り込まれたり、人を欺きやすい多年氷に長い航海の間直面しなければならない。極域における海難事故の80%は、人的なミスが主な要素であることが認められている。そのリスクは船員に課せられた要求とともに増大している。また他の大きなリスクに油汚染がある。これは環境に甚大な損害を与える。
最近の20年間に、リモートセンシング技術、特に衛星リモートセンシングは現業的な海氷監視において、重要な役割を持つまでに達した。WMOが1991年9月10〜13日に、オッタワのCanadian Ice Serviceで開催した第2回氷リモートセンシングワークショップでは、この分野の多くの重要な研究機関が集まった。その議事録(AES report 1991)では、SARを搭載した衛星がオペレーショナルになる以前のオペレーショナルな海氷リモートセンシングについて述べている。1991年はERS-1の打ち上げにより、氷リモートセンシングの新しい時代の始まりを意味している。それは海氷の広い範囲を覆うSARデータを供給する初めての地球観測実験であった。1995年からはERS-2が海氷のSAR画像を撮り続けている。1996年からはRADARSATが幅広い観測幅を持ったSAR画像を供給しており、現在では1〜3日に一度の割合で(緯度にも依るが)、全ての海氷を覆うSARデータをオペレーショナルな海氷監視に利用することができる。
*岡田弘三