日本財団 図書館


アクセルは緩めない

2番目には、あした走るコースは、きょうゴールしないと教えてくれないんですね。どこへ行くかというのはわかっているんですが、途中どこを通るかというのがわからないんです。きょうゴールすると、あしたのロードブックをくれるんで、それでわかるんです。あ、そうか、砂漠が多いなとか、岩場が多いなとか、それでわかるんで、次の日のため、ガソリンは何リッター入れよう、タイヤはどのタイヤを使おう、空気圧ほどのくらいにしようとか、いろいろなことを決めるわけです。この道路状況が判らないままに全速力で走るのはまず無理ですね。

走行中は、アクセルをほとんど戻しません。1メートルぐらいの高さのこぶがあるとします。このままのスピードでそこをジャンプすると、どのくらいジャンプするかというのはわからないわけですね。ですからできるならばアクセルを戻したいんですけれども、そういうこぶが何百も1日のうちに出てくるわけですから、いちいちアクセル戻したり、ブレーキ踏んだりしていると、それだけで何分もの差がついてしまいます。とにかく予測して、多分大丈夫だろうと思ってアクセルを踏んでいくのですが、たまには失敗することもあります。

大失敗の経験

私の一番大きな失敗は1991年に起きました。そのときは我々のチームは4台で参加したんですけれども、私と、あと3台は外国人のドライバーでした。この外国人のドライバーが3人とも道を間違えたり、車を壊したりして、もう優勝の可能性がなくなってしまいました。私だけその時点で3位を走ってまして、優勝のチャンスが残っているということで、さすがに気合が入りました。とにかくトップに出るぞと思って、朝スタートして約10キロ行ったところで、2メートルぐらい落ちてる段差が見えたんですね。そのとき6速に入ってまして、6,000回転回ってましたから、多分時速190キロぐらい出ていたはずなんですね。我々の車は、スピードメーターがついてないんで、その回転とギアから推測して、時速190キロぐらいだと思ったんですけれども、普通の精神状態ですと、2段ぐらいギアを落として、4速ぐらいにして、もちろんブレーキを踏んで、スピードを100キロぐらいまで落として、ピョンとジャンプするんです、ところがなにしろトップに出なくちゃいけないと思ってたんで、アクセルを踏んだままで怖いなと思ったんですけど、ベッタリ踏んだままで行ったんです。

自分で予想したよりも、ちょっと高く車が上がりました。まずいなと思ったんですけど、もう空を飛んでいるんで何もできないですね。次の瞬間、目の前に砂が見えまして、フロントのバンパーから着地して、そのまま縦に転がりました。フランスの新聞は9回転したと書いてあるんですけれども、私の数えた限りでは4回転じゃないかと思います。いずれにしても、縦に転がったんで、車はかなりダメージを受けました。でも、私はシートベルトのおかげで無傷、隣を見たら、フランス人のナビゲーターも、動いてたんで、生きてはいるなと思って安心したんですけれども、目が見えないと言うんですね。これはだめだなとあきらめてリタイアしました。

とにかく路面が見えないところを、アクセルを踏んで走るというのは非常に怖いんですけれども、怖くても踏んでないと勝てない、これが多分、2番目に難しいところじゃないかなと思います。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION