1章 調査の概要
1. はじめに
わが国では、人口の6人に1人が65歳以上の高齢者である。さらに21世紀初頭には、この比率が4人に1人になると予測されており、わが国の高齢化は急速に進展している。また、身体ないしは精神に何らかの障害を有する者は、全国で約450万人おり、人口の30人に1人が障害者である。このような中で、高齢者や障害者が、自立し、社会参加を行っていくことが、豊かで、活力ある社会を実現していく上で一層重要となってきている。
高齢者や障害者が自立し、社会参加を行っていくためには、彼らが、安全に、身体的負担が少なく、円滑に移動できることが前提条件となる。しかしながら、昨今のわが国の状況を見ると、東京・大阪などの大都市では、地上・地下に様々な交通システムが重なり、複雑化している一方、地方都市では、自家用車普及が一層進む中で、バス・鉄道等の公共交通の縮小化が進み、自ら移動手段を持たない高齢者・障害者の円滑な移動が損なわれつつある。
今般、1998年より、欧米主要都市において高齢者・障害者の交通に関してどのような対策が取られているのか現状を確認し、わが国における移動支援の在り方を展望する調査を実施することとなった。本調査報告は、その1年目として、フランス・ドイツの事例調査を行ったものを中心にとり纏めたものである(1998年10月17日〜11月1日に現地調査実施)。
2. 調査の視点
本調査では、まず第一に、フランス、ドイツおよび日本の都市の現状を調査した。移動制約者の交通対策を行っている中心は市町村あるいはその連合である都市圏である。その施策を、公共交通の中の大量輸送(バス、路面電車などの陸上交通システム:但し飛行機、船舶は今回調査対象としていない)と、個別輸送(タクシー、STサービスなど)に分けて整理を行った。また、可能な範囲で、各都市がそれぞれの国全体の中で、移動制約者対策に関して、どのような位置付けにあるのかを明らかにしようと試みた。また、本調査では、移動制約者のうち、車いす使用者、高齢者に関する情報が多くなっているが、視覚・聴覚障害者等への対応についても、情報が入手できる限り極力言及した。
次いで、上記の各都市での施策の背景を確認するため、国全体の制度の概観を行った。具体的には、高齢者・障害者の移動円滑化を進めるための法制度、国や自治体の補助・助成制度、運賃割引制度、鉄道(長距離)での対策等について整理している。
3. フランス、ドイツで調査した都市
これまで、欧米各回における移動制約者の交通環境については、スウェーデンやイギリスでの先進事例を中心に様々な角度から調査されたものが報告されている(6章に、両国での取り組み状況を補足説明している)。