日本財団 図書館


053-1.gif

粗い格子間隔に(120km)で計算された亜熱帯循環と亜寒帯循環の例。海面から海底までの流速を積分した流量に対しての流線が描かれているに(Han,1975による)。

 

053-2.gif

細かい格子間隔(40km)で、第85図と同じ外力に対して計算された流れ(瞬間図)(Han,1957による)。

 

053-3.gif

細かい格子間隔の計算結果を520日間平均したもの。平均図は第85図の粗い格子の結果とよく対応している(Han,1975による)。

 

そこでは、海洋の渦を分解して世界の海のシミュレーションを可能ならしめるような超大型計算機の出現を、21世紀の初頭と想定し、それまでにモデルを開発するとともに、モデルを検証するに必要な海洋データセットを準備することにあった。すなわち、シャーロック・ホームズのパイプの第一段階・第二段階を世界の英知を集めて10年(WOCE計画策定は1980代一杯かけて行われた)にわたって検討し、1990年代に入って、ようやく実行に移きれたのがWOCE計画なのである。

先に述べたストンメルの深層循環モデルの例が示すように、優れた理論はその後の観測研究に対して明確な指針を与えるものである。しかし現在の所、数値シミュレーション研究が、そのような研究の新しい方向付けに役立った例を私は知らない。ここに論じた中規模渦の存在は数値実験を通して予測され得た可能性のある事例ではあるが、現実には「細かい格子を用いた計算で渦が発生する」という事実は、計算不安定かなにかの、計算上の問題とみなされていたようである。そのため、「海は渦に満ち溢れている」という観測事実が、シミュレーションの内容を一気に変化させるようなことが起こったのである。

数値シミュレーションは、パイプの第一段階「我々は何を知っているか」を検討する際には、最も強力な手段を提供するが、第二段階の「我々は何を知る必要があるのか」を判断する点では必ずしも有用な手段を提供してくれないのが通常である。研究手段のそれぞれに応じて、得手不得手を十分勘案すべきであろう。

 

4-2.熱輸送における深層循環の役割とWOCEに基準観測線で要請された観測精度

大気と海洋の大循環が、地球上へもたらされる太陽放射の熱の緯度的なアンバランスを解消する働きをしているが、海洋の担う役割がほぼ大気のそれに匹敵していることは意外に知られていない(地球全体では大気のそれの半分位、ただしある緯度では海洋の熱輸送の方が大きい)。海洋中の南北熱輸送の直接的な評価は、各大洋で状況が大きく変わることもあって、大気のそれに比べて非常に難しい。図9に、種々の方法で推算した大西洋での南北熱輸送の推算値を示している。先ず目に付くのは、方法によりまた研究者により推定値が大きく異なっていることであり、比較的狭い大西洋においても海が担う南北熱輸送の推定がいかに難しいかを示している。

ここで面白いのは、すべての方法・すべての研究者において、例外なく南大西洋においての熱輸送の符号が北大西洋と同様にプラス、すなわち北向きと推定されていることである。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION