調査研究の終わりに際して
岡田喜裕
平成7年、科学技術基本法が成立し、科学技術基本計画の重要な科学分野の研究開発として、「宇宙の利用等により、地球的規模の諸現象を解明し、環境との調和共存を図るべきこと」が示されている。翌年の平成8年には、宇宙開発政策大綱がまとめられ、「人工衛星からの地球観測及びそれを活用する地球科学は、気象予報、気候変動予測を始めとし、幅広い分野で貢献するべきものであり、自然災害等への対応の基礎を与えるものとしてその活動を拡大していくことが重要である」との指針が示された。また国際的な動きとしては、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)において、来世紀中に予想される全球平均気温と平均海面の上昇等について議論されている。「環境の変化とそれによる社会生活/経済活動等への大きな影響があることから、この様な問題に対応し、今後、科学的な不確実性を低減させるための研究計画の加速及び地球規模の観測・監視システムの拡大に各国政府が直ちに着手すべきである」と指摘している。このように衛星を使用した技術は今後の地球観測が目指すひとつの大きな柱となっている。
上記のような内外の事情を考慮すると平成8年から始められた本事業は時期的にはまさに的を得た事業であり、その成果が期待された。本事業は、SAR(合成開口レーダー)の基礎的な解析手法について過去の文献調査ばかりではなく、実際にデータを解析し、調査研究を行った点に、大いに意義がある。SARは本報告書にも記載されているように衛星軌道の向き、ドップラシフト、合成開口時間、ビーム角度・・・等々、実際に利用するには様々な問題が山積している。しかし、それを踏み越えて、水路の安全のために実際にデータを手にとって解析技術を開発したことの意義は大きい。
しかし、現在、SARはALOSのミッションに組み込まれ、多くは陸域観測用として位置付けされている。その中でかろうじてJERS-1に搭載されているSARを高機能、高性能化したLバンドのアクティブフューズドアレイアンテナ型の合成開口レーダー(PALSAR)があり、沿岸域水域の海氷観測用として開発中である。本事業の目的の一つである所の氷域観測の技術開発はこの研究にもつながるものであると期待できる。
本事業は、合成開口レーダーの海洋観測への応用可能性を検討することを目的として3ヵ年にわたって実施された。まず平成8年度にはSARの観測原理、特徴、データ処理方法などについてとりまとめるとともに、SARに関する現状や技術動向を文献・ヒアリング等により調査し、海洋観測における有望な分野として、流氷、海流、波浪を対象とすることにした。次に平成9年度には、それらの中から流氷を対象として選び、SAR画像による海洋情報の解析を実施した。RADARSAT対画像を購入、目視による流氷判読、SAR画像に見られる流氷の特徴的パターンの抽出、画像処理による流氷分布・密接度の算出を行った。