しかし、波浪や海流についてはこれらを直接観測しているわけではなく、これらが表面のさざ波に与える変化をパターンとして捉えるしかないという点が基本的に異なっている。これらの海洋現象に関するSAR画像の解釈を進めるためには、
・ 散乱モデルの構築による定量化と現地観測による実証
・ SAR画像と同期した現地観測の蓄積と判読技術の改善
が必要と思われる。現地観測においては、目的とする観測項目の絞込み、観測すべき物理量の選択、衛星と同期可能な観測方法または航空機SARの利用、観測値とSAR画像による情報との比較方法などについて計画する必要がある。
対象毎の現地観測方法に関する考察は、流氷、海流、波浪については3.1に、それ以外の対象については3.2の各項に示した。
(2)継続的なデータ提供
観測データを業務に利用するユーザにとっては、データが継続的、安定的に供給されることが望ましい。一旦、利用が始まればそのデータが入手できることを前提に業務が構築されるためである。ESA(European Space Agency)がERS-1に続いてERS-2を打ち上げ、さらにENVISATの打ち上げを計画し、Canadian Space AgencyがRADARSATに続いてRADARSAT-2の打ち上げを計画しているのはデータの供給を途切れさせないためである。また、新型衛星になってもデータに互換性があり、エンドユーザが従来の機器、ソフトを流用できることも重要である。
(3)観測スペックの多様化
実利用段階ではユーザが必要に応じて、解像度、入射角、観測幅、観測日時を選択できることが重要であり、RADARSATが実用化した観測モードの切り替え機能は今後打ち上げが予定されている全ての衛星で予定されている。これによって観測対象に適したスペックでのデータ取得が可能となる。
また、複数の衛星が利用可能な状態では観測頻度の向上が期待できるため、変化の激しい対象物についても短い時間間隔での観測が実施できる。
海洋現象のSAR観測は入射角の影響を受けやすいことが本研究からも明らかとなっており、最適な入射角の選択が重要となると考えられる。また、陸域に比べ変化の時間スケールが短いため、対象とする現象の時間スケールに合わせた画像取得が重要である。
(4)データ配布体制の整備
現在、データ提供の主流はCD-ROMを宅配便で送付する方法であるが、ユーザが1次加工したデータを2次ユーザへ提供する場合や対象の時間変化に対応する必要がある場合、緊急時などではユーザの手元にデータが配布されるまでの時間が重要となる。
特に海洋現象は常に変動しており、配布時間が問題になるケースも多いと考えられる。