4. CFDによる船型設計システムの開発
船型設計分野におけるシステム設計の整備を促進するためCFDコードと、最近の最適化アルゴリズムを組み合わせて船型改良の指針を得る設計ツールの開発を行い、船型設計の自動化に取り組む。これらにより、従来経験的・実験的手法に頼っていた船型改良手法をCFDによる流体解析に基づいたシミュレーション設計の手法に変革し、造船設計におけるCFD-CAD-CIMの一貫システムの構築に寄与することを目的とする。
(1) システムの概要と特徴
本システムの構成は、CAD、CFD、性能評価の3つの基本要素からなる。船体形状データ形式として標準規格曲面データのIGES(the Initial Graphics Exchange Specification)形式を採用するとともに、STEP規格への変換機能も考慮した。また船型最適化のアプローチとして順問題と逆問題最適化アプローチを併用した。順問題アプローチとは設計者がCAD上にて船体形状の変形を行い、CFD計算を実施して計算結果を評価し、再度CAD上で形状変更を行うというプロセスを繰り返して、目標とする性能が得られるまで船型を最適化していく、図4.1に示すアプローチである。逆問題最適化アプロチとは、初期船型に対してCFD計算および最適化プログラムにより、ある拘束条件の下で目的関数が最小(あるいは最大)となるように自動的に最適形状を検索する、図4.2に示すアプローチである。
CADには汎用性の高い標準データ形式であるNURBS(ノンユニフォーム有利B-スプライン)曲面表現の標準規格IGES形式を採用した。従来はCADとCFDとの船型データの交換は、主にオフセットテーブルのような点列データで行われてきたが、船首尾端部のような曲率の大きい部分、ナックル点や平面部とのとりあいを正確に表現できないという問題があった。NURBS曲面表現形式の採用により、船体形状を正確に表現でき、前述の問題は解消された。
CFDツールとしては、粘性抵抗計算、造波抵抗計算、自航要素計算および操縦流体力計算が装備されている。船型最適化ツールとしては、粘性抵抗あるいは造波抵抗を最小とする最適化計算が含まれている。これらによって与えられた船型の推進性能と操縦性能が評価できるばかりでなく、船型に拘束条件を与えることによって粘性抵抗あるいは造波抵抗を最小とする船型を直接に計算から求めることが可能である。
順問題アプローチの場合、CFD計算結果の評価は設計者がCFDから直接算出された粘性抵抗値、自航要素、造波抵抗値に加えて、伴流分布、圧力分布、波形パターン等の流場情報を可視化技術を用いて評価する。しかしCFDから直接算出される推定値には定量性が、いまだ十分とは言えない。定量的な推定値を得るために、蓄積された水槽試験Date BaseとCFD解析結果データを基に、両者の相関を用いてCFDによる性能推定の精度を向上させる手法を採用した。逆問題最適化アプローチの場合、得られた船型の妥当性は、計算された流場の可視化によって船型と性能との関連から効率的に認識することができる。