(3) 最小粘性抵抗船型設計法の開発
粘性抵抗を最小とする船型を直接計算によって求める方法では、2通りのアプローチを研究した。両者とも最適化手法には非線形計画法の逐次2次計画法が利用されているが、主な違いは粘性抵抗を計算するCFD計算部分と粘性抵抗の少ない形状を探る感度解析の手法および形状変化の方法である。これらの方法により、低速肥大船型(SR221B-L2船型)を対象として、船の長さ、幅、喫水、排水量のほかにプロペラや主機関の配置スペース等の制約条件を与え、最小粘性抵抗となる船尾形状を求めた結果、得られた肋骨線形状は両者とも同様な傾向を示すことがわかり、CFDと非線形計画法を組み合わせた最適化手法が有効であることが実証された。
この最適化計算手法によれば、船型の最適化計算の過程で、船型変化に伴う粘性抵抗や流場の変化も同時に出力することができる。図3.4は初期船型と得られた最適船型の線図の比較を示す。図3.5は最適化の過程で粘性抵抗が逐次減少していく傾向が示されており、最終的に計算で約6%の粘性抵抗低減が得られている。
図3.4 初期船型(SR221B-L2船型)及び改良船型の線図
図3.5 初期船型から最適船型に至る粘性抵抗の減少
これらの情報の他に、最適化に伴う船体まわりの圧力分布や渦分布の変化を表示することができ、船型改良における流体力学的な理解を助けることができる。従来の水槽試験や経験的手法に対して、より豊富な情報を用いて迅速かつ合理的に船型を決定するツールが開発されたことになる。
(4) まとめ
以上のようにCFDに基づく最小抵抗船型設計法によれば、造波抵抗あるいは粘性抵抗を最小とする最適形状が得られるだけではなく、船体まわりの流場情報、例えば船体周囲の波高分布や船体表面上の圧力分布といった情報を取り出すことができるので、流体力学的な根拠に基づいた船型設計が可能となる。また将来的にはこれらの手法を全抵抗最小船型や推進性能も考慮した馬力最小船型の設計法に拡張していくことも不可能ではなく、Simulation-Based Designに基づいた船型設計を実現する糸口が開けたと考えられる。
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