(2) 最適化設計の試行
開発した船型設計システム、CFD、最適化手法の有効性を検証するため、低速肥大船であるSR221Bタンカー船型を母船型として実際に船型改良を行い、水槽試験結果と比較検討した。船型改良プロセスでは、従来の順問題アプローチに上記の逆問題最適化アプローチを組み合わせた。逆問題最適化では、実際的な拘束条件を与えて粘性抵抗を最小とする船型を求めることにした。具体的には、CP曲線および肋骨線形状の変更が行われた。形状変更された船型は、CFDを用いて造波抵抗、粘性抵抗、自航要素などの性能を推定し、改良効果を確認した。また操縦性能についてもCFDにより検討し、保針性能が許容範囲内であることも確認している。
船型変更は主要目(長さ、幅、喫水、排水量)を固定し、副次要目(1cb[浮心前後位置]、CP曲線の肩張り/肩落ち傾向)の変更を許している。最終的に得られた船型をSR229船型とした。図4.3に船尾形状を比較して示す。
(3) システムの評価
船型が順次に改良されていった例として、粘性抵抗最小化の過程を図4.4に示す。粘性抵抗を形状影響係数(1+K)で表わしている。L2船型は、母船型(SR221B)から機械的にlcbを変更し全抵抗(粘性抵抗+造波抵抗)から最適な1cbをもつ船型である。L2船型の母船型(SR221B)からの粘性抵抗減少効果は約2%である。L2船型と同じlcbをもち逆問題最適化アプローチによって船型改良されたO2船型は、約5%弱の減少効果に達している。したがって母船型に対して、1cb、CP曲線および肋骨線形状の変更により7%の粘性抵抗減少が期待される。L2船型を順問題アプロチにより改良したO3船型とほぼ同じ粘性抵抗性能をもつ船型が、計算から生み出されたことは大いに評価できる。
これらの検討により最適船型(SR229船型)を設計して、母船型とともに水槽試験を行った。図4.5に実船馬力における船型改良効果を母船型と比較している。最適船型は母船型と比べて14%の馬力低減が確認された。14%の内訳は抵抗性能の改良が約10%、自航要素の改良とプロペラ再設計による効率向上が約4%となる。CFDを用いた推定値に基づく馬力の削減効果の予測は12%であり、水槽試験結果と良好な一致を示している。本システムが定量的にも十分満足できるシステムであることが実証されたと考える。
粘性抵抗を評価する場合の計算ツールの進展を従来システムとで比較すると表4.1のようになる。従来システムとは、本研究成果を含まないCFD計算を援用した船型設計手法である。