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今後の日本の対中姿勢については、中国が今回強く要求した歴史認識問題を、日本が取り合わなかったという事実が示すように、「是是非非」の態度に変わっていくであろうとの見通しを強調した。以上のようなフランクな意見の表明は、ファーストトラックを通じては行いにくいことから、豪州側は熱心にメモをとっていた。

 

(3)所感

 

今回の相手は外務・貿易省、国防省の官僚であった。セカンド・トラック対話といっても、対話にはならず、日本側の質問に先方はそつなく答えるという形になった。「国防白書」や「外交青書」にあるような内容を披露するということで、それ以上の個人的な見解を求めることは無理であった。オーストラリアから見ると、半島情勢もロシア情勢も中国情勢も日本国内の動きも、すべて遠い国のできごとであり情報が入りにくい。そこで、今回のように日本からのデレゲーションから事情を聴取することは、先方にとってはきわめて有益であったと思われる。このような情報交換を通じた対話チャネルの拡大を豪州側は希望した。4

 

将来、視察団が彼等と会議を行うとすれば、半島情勢もロシア情勢も中国情勢も日本国内の動きについて、それぞれ3〜4時間ぐらいかけ、じっくり意見交換をおこなうセミナー形式がよいと思われる。オーストラリアの国防白書には「今後15年のうちには、日本が最重要なdefense partnerとなろう」と書いてあるように豪州側の対日関心は高い。

 

豪川側は日本チームから、「日本が韓国と緊密な関係に至っている」という報告を初めて聞き、重大なショックを受けていたようである。その証拠に、彼らは視察団の日韓のセカンドトラックの進展状況報告を黙々とノートに記録していた。

 

だからこそ、「同じようなことが日豪のあいだでできないか」と言ったときには、先方の目がかがやいていたようである。「日韓のあいだに安全保障対話KJ Shuttleがなりたつのであれば、日豪間にも、JA Shuttleというものができないか」とお互いに話しているのが印象的であった。

 

4 日本の情報がいかに入りにくいかについて補足すると、今回オーストラリア側に参加する予定であったが都合で欠席せざるをえなかった専門家に国防省戦略政策課のボブ・オームストン(Bob Ormston)博士がいる。「オーストラリアの戦略政策」が昨年(1997年)発表された後、その後に起きたインドネシアの政局の混乱とアジア通貨危機の要素をどう加味し、「オーストラリアの戦略政策」の「欠陥」を修正すべきかの調査研究が行われた。このとき、外務・貿易省および国防省・軍のスタッフからなるチームがオームストン博士を中心に編成された。チームは、オーストラリア国内の大学・研究機関、およびアジア諸国に聴き取り調査を行った。同チームは阿久津が所属するオーストラリア国立大学アジア・太平洋研究所にも訪れたが、アジア地域全域を掌握する安全保障の専門家が少ないことを知ってがっかりした様子であった。このことから察するに、おそらく、オームストン博士は信頼に足る情報パイプをアジアに持たないようである。これは単なる推量であり、今後裏付けが必要だ。しかし、この点に関して日本の民間研究機関がセカンド・トラック対話を通じて貢献する余地があることは確かである。とくに、今後日豪が海洋安全保障において協力していくのであれば、その素地作りにおける民間研究機関の役割は大きい。

 

 

 

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