しかし、同時に、現在の指導者が「その気になれば南沙諸島を武力で奪うことができると考えている」との観察も披露した。
博士は、海洋フロンティアをめぐる問題で、中国の周辺国が中国に対して適切な地政学的承認を与えていない、との中国の主張を支持した。
オースティン博士退出後も、視察団とハリス教授との中国をめぐる意見交換が続行し、中国の核実験や南京大虐殺疑惑の問題にまで話題が及んだが、対中認識に関して両者の一致点はまったく見られなかった。最後に、ハリス教授は自分が若き外務官僚だった1950年代に成功させた日豪関係修復の経験を振り返り、「かつての日本も戦後50年で大きく変ることができたのだから、中国だって変ることはできるはずだ」とのきわめてナイーブな発言をした。「中国にチャンスを与えてやってもいいではないか」との唐突な発言は視察団を驚愕させた。
(3)所惑
今回視察団と意見を交わしたハリス教授とオースティン博士は、オーストラリアを代表する親中派の学者として知られている。彼らの研究室には頻繁に中国大使館関係者が出入りし、彼らの日中関係セミナープログラムでは必ず親中派の官僚や学者、あるいは中国大使館員がコメンテーターとして参加している。そのような知的サークルにおいては、「日豪関係は経済的には進展したが、日本の軍国主義復活に対する疑念はまだ払拭されない」との認識が支配的である。日本の軍国主義回帰への警戒が、親中として発露している。マスコミも類似した問題を抱えている。たとえば、オーストラリアの全国紙「ザ・オーストラリアン」は、人権問題や経済発展にともなう社会問題では中国を批判するが、安全保障に関しては、朝日新聞と中国政府の見解を引用し、日本への警戒感が露わである。日米共同のTMD開発にも警戒心を露わに表現している。
対中認識のズレを埋め、日豪間の実効的な海洋安全保障協力を実現するためには、観念論に走りがちで実務を知らない学者やマスコミではなく、政府関係者あるいは、政府に影響力を持つ民間シンクタンクに直接コンタクトし、セカンドトラックによる本音レベルの対話を試みる必要があると思われる。