● 質疑・自由討論
今回の訪問では質疑・応答を通じての有意義な討論が、行われた。日本チームの最大の関心は、オーストラリアの対中認識であった。ベートマン所長は、中国をCSCAPなどの制度化された対話によってマネージできると強調した。これは当センターのプログラムが対話や信頼醸成措置を重視していることから予想された説明であった。それに対し、視察団側からは、中国は依然として台湾のCSCAPS参加を拒んでおり、また、台湾問題について武力行使の可能性を表明しているため、中国に関しては過度の楽観は危険である、との意見が主張された。その他、中国の大陸国家としての性質を認識することの重要性、アジアの金融危機、海洋問題における多国間主義に基づく解決アプローチの重要性などについて言及があった。
(3)所感
研究所は小規模であるが、多数の海外留学生を受け入れ、教育を通じてアジア諸国とオーストラリアの友好関係に民間レベルで大きな寄与をなしている。プログラム構成からや学生数や、研究・内容の充実度からも、当研究所は「海洋研究のメッカ」と評価せれる。
とくに、多数の海外留学生将校とオーストラリア人海軍将校たちとのざっくばらんな交流を見ていると、非公式の場での政策担当者間の信頼醸成の重要性を再認識させられるとともに、アジア・太平洋の海洋政策分野でのオーストラリアの将来の活躍が予感された。
但し、今後日豪の海洋政策の協力関係においては、対中認識のずれを埋める努力が、不可避であると再認識された。
同じ海洋国家の日本にこのような研究センターに相当する機関が皆無であるのは、実に残念である。アメリカ、イギリス、カナダ、そしてオーストラリアではいずれも大学にこうした海洋研究、海洋政策研究の機関やプログラムが設置されている。それにひきかえ、日本の大学にはこうした研究・教育機関やプログラムが現在のところ見当たらない。今後日豪、あるいは日本と他のアジア・太平洋地域の海洋研究・教育機関との合同研究や協力を行うには、検討が必要である。日本の大学がこの点を認識し、できる限り早急に対応することを提言する必要があろう。日本からも留学生を政府機関のみならず大学や民間企業からも積極的に送り出し、そのための素地を作ることが肝要であろう。日本から当研究所へ人材を派遣するとともに、日本の大学等のなかに同様のプログラムを設置し、海外からの留学生を受け入れ、日本とアジア太平洋の人脈を太くする必要もあるように思われた。
2 その後、マッキノン氏より、氏の統括している海上保安関連のプログラムについての若干の補足があった。氏によれば、オーストラリアやマレーシアにおいては、海洋管理に関しては複数の政府機関が各々異なった関心から関与しているのみならず、それらを統合的に調整する機関も存在せず、さらにそれを設置する努力も希薄であるため、当プログラムがその間歇を埋めるべく、海軍から学生を募って教育を行っている、ということである。その他、中国では中央と地方はばらばらの海洋法を採用・執行しており、中央・地方政府間の調整がほとんど行なわれていない、という点も指摘された。