C. 注目すべきオーストラリアの対日観
オーストラリア側から「海洋分野での安全保障の対話について、日本にアプローチしても、日本には相手となる機関がない」との不満が各地で表明され、日豪間の安全保障関係は「オーストラリアの片思い」という印象を強く受けた。防衛交流分野も「日豪ポリティコ・ミリタリー協議」(PM協議、第1回は96年実施)はオーストラリアの積極的な働きかけで実現したものであり、いかにオーストラリアが日本を重視しているかは、次に示すオーストラリアの『外交通商白書』や『国防白書』をみれば明かであろう。
『外交通商白書(In the National Interest)』
「オーストラリアの対日関係の奥深さと質は、オーストラリアの幅広い安全保障と経済上の目標推進のため極めて重要である。政府は最上級の相互依存関係を築き上げている。………今後の15年間に、日本は、アメリカとの強固な同盟関係の枠内で、徐々に自国の安全保障に対してより大きな責任を果たし、域内でさらに密接な防衛提携を促進して、オーストラリアにとっていっそう重要な防衛上のパートナーになるであろう」。
『オーストラリアの国防政策(Australia's Strategic Policy)』
「アメリカとの同盟は最も重要な戦略的関係である。東南アジアや南西アジアや南西太平洋地域の多くの国との長年にわたる防衛の連携も協力促進の基盤である。われわれは域内の平和と安定のために、できるだけ多くのアジア太平洋地域諸国の間で共通の決意推進に努めている。しかし、東南アジアや南西太平洋地域の近隣諸国との絆が、膨大な戦略的重要性を持っているものの域内の戦略的重点が北東アジアにあるのは事実である。このため我々は北東アジア、特に日本と中国との連携を強化している。オーストラリアは日本との戦略的利害を多く共有しており、すでに定期的なポリティコ・ミリタリー協議(PM協議)を発足させ、これを情報交換など適度の軍事的連携で補完している」。
(3)諸外国研究機関及び研究者との交流
平成9年度は基礎的な調査・研究が不足したとの反省から、平成10年度はアジア太平洋地域の各国が「公海の自由航行」に関連してどのような研究を行ない、活動を進めているのかを探り、合わせてアジア・太平洋におけるこれら諸国の研究所と研究者との交流を強化するため、各国から海洋問題の専門家を招聘し、意見などを聴取するとともに地域情勢、各国の海洋戦略等に関する情報収集および意見交換を行った。この研究会ではヒアリングと意見交換を重視したため、日本側の参加者は5〜7名に制限された小規模な研究会であったが、参加者を制限したことから密度の高い得るところの多い研究会となった。研究会の特徴的なところを述べると、マレーシア海事研究所MIMA(Malaysian Institute on Maritime Affairs)のビー・エイ・ハムザ所長は、設立当初から国際的に活躍する論客/研究者で、東南アジアにおける海洋問題の先駆的な役割を果たし、マラッカ海峡の安全の確保等について沿岸諸国の中でリーダーシップを発揮している人物であり、良質な出版物を多数発行していることで知られている。