(2)調査団のオーストラリアヘの派遣
9年度はハワイに調査団を団派遣し、太平洋艦隊司令部(CINCPACFLT)にクレメンス司令官を訪問し、同司令部国際法担当幕僚から新国連海洋法に関するブリーフィングを受けたほか、太平洋艦隊のシンクタンクであるアジア・太平洋安全保障研究所Asian-Pacific Center for Security Studies、CISS(Center for International Strategic Studies)などを訪問し、アジアの経済危機、安全保障上の問題などに関し意見の交換を行った。次いで、平成10年度には12月1日から6日の間、オーストラリアに下記に示す調査団を派遣し、ウーロンゴン大学海洋研究所(ウーロンゴン)、オーストラリア国立大学(キャンベラ)、外交通商省(キャンベラ)、オーストラリア防衛協会(メルボルン)などを訪問し、意見を交換した。
調査団の構成 団長 川村純彦(川村海洋研究所所長、元海将補)
団員 小川彰(岡崎研究所事務局長)
団員 平間洋一(防衛大学校教授、元海将補)
団員 潮 匡人(ジャーナリスト・評論家)
団員 阿久津博康(オーストラリア国立大学博士課程・オーストラリア国防大学非常勤講師)
団員 大越敏離(笹川平和財団・岡埼研究所客員研究員)
なお、本派遣で得た所見は次の通りである。
A. オーストラリアの地政学的価値の発見
オーストラリア訪問を通じて、公海の自由航行の研究の範囲、あるいはその進め方について多くの示唆を得ることができたが、特にオーストラリアの訪間を通じて、オーストラリアのインド洋と南太平洋を抑える地政学的価値を再認識することができ、そこから今後の本事業の方向性も見えてきたように思われる。一方、この戦略的に重要なオーストラリア国内には、国際的貢献へ積極的な「国際派」の流れと、消極的な「孤立主義」的な流れの二つのトレンドがせめぎあっており、オーストラリアが海洋国家連携の枠組みの構築に加わるのは、必ずしも容易ではないとの国内事情も観察できたのは収穫であった。
B. 中国の脅威に対する温度差
中国から遠く離れているためヨーロッパ諸国が中国の問題を理解できず中国に現実的な脅成を感じないように、オーストラリアの中国への理解は限られ、ウーロンゴン大学海事研究所サム・ベイトマン所長などに代表される、「海洋安定化のための安全保障協力の中に、地域各国を引き込むことが大切だ」という中国と話し合い協議できるとの「マルチ的安全保障観」と、ディック・シャウッド教授の米豪の二国間同盟を重視し、アジア・太平洋地域の安全保障は「パワー・バランスの中で考えるべきである」との「バイラテラル的安全保守観」と、多様な思考がせめぎあっていることも理解できた。