公海の自由航行に関する普及啓蒙プロジェクト提出論文
海洋の安定と東南アジア地域的安全保障
(付:マレーシア政治の変化と継続)
B.A.ハムザ(マレーシア海事研究所長)
潮 匡人訳・解説
解説:
地域の海洋の安定に大きな影響を与える地域的安全保障の枠組み作りの進展状況に関する論文である。90年代初頭には、ベーカー論文の"America in Asia"(Foreign Affairs誌,1991/1992 Winter, p.p.4-5)多国間安全保障の枠組みがもてはやされた。しかるに、97年に始まるアジア経済危機は、この地域の薔薇色の将来像に冷水を浴びせた。この論文でハムザ博士は、東南アジア地域のおける包括的安全保障の重要性を強調するとともに、アセアン10か国が今後とるべき諸政策のあり方についても論じている。
さらにハムザ博士が流動的なマレーシア政治情勢を詳細に分析している。論文はマレーシアにおける政治的変化を必要なものとし、ポスト・マハティール時代に政治の蘇生が行われると結論づけている。マレーシアの安定は、地域の海洋の安定に重大な影響を与えることからこの論文の後半もまた注目すべきである。
<東南アジア地域的安全保障>
○包括的安全保障の重要性
東南アジア各国は、彼らの全体の組織が崩れたのは、軍の驚異からではなく、経済状況からであると、突如として気付きはじめた。この経済的不安定の大部分は国際的パワーによるものである。悪影響は国際的である。しかし同時に、国内的脆弱さが、この問題を悪化させる要因となった。
○国内的経済の衰弱
国内問題は、人々の期待に応えることによるものだけでなく、インドネシアの暴動や、マレーシアのデモのような政治的分裂をはらんでいる。タイ、インドネシア、韓国は、経済問題により、政治指導者を変えた。日本においても同じで、小渕政権が、今後どれほど続くかは分からない。マレーシアとシンガポールのように、経済問題は国際問題までも引き起こす。両国が些細なことで互いに非難し合いはじめ、小さな問題が、突然、利用される。経済的悪影響は、特に相互関係において、アセアン安全保障の脆弱性をさらけ出した。
○人々の流失
この地域で、一体何人の人達が仕事と安定を求めて国々去ったか分からない。ほんの少しの国しか認識していない事実だが、この出国者は主要国において深刻な政治、文化、社会問題を引き起こした。この幾つかの地域での不安定は、防衛費を上げられなかったときに、防衛費にもっとお金を出すように国々に圧力をかけた。興味深いことに、この地域では、防衛費を下げなかった国もある。それは、中国、台湾、シンガポール、日本である。これらの国は、もはや周辺国を信じていないか、波及効果をくい止めるさらに大きな予防措置をとっているかのいずれかである。