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そのなかでも、戚其章氏は、1985年に「社会的な実践とその効果を評価の基準とすれば、洋務運動の進歩的作用を基本的に肯定すべし」と実証的な立場を表明し、イデオロギーをもって「洋務運動」そのものを退ける立場はとらない立場を明らかにした。これは、トウ小平理論の標語である「実践は真理を証明する唯一の基準である」を踏まえていることは言うまでもない。いずれにせよ、改革初期の時点で、戚氏は、かかる実証主義的な手法で、既に1981年に「北洋艦隊」を完成させ、清末海軍通史につき、始めてまとまった論考を行い、注目された。

北洋艦隊については、それまでの公定イデオロギーでは、「農民戦争を鎮圧するもの」とあやまった認識をされていたが、1980年代の初頭、喬還田氏あるいは戚氏らによる論考で、右のような認識は改められていった。もちろん、その後の実証的な研究は1982年に出版された「清末海軍資料」という基本資料集の地道なかつ浩瀚な編纂によって支えられていったことは看過できない。

 

三 九〇年代に生まれた海軍史

 

「改革開放」の始まりから疾風怒濤期とも言える80年代は、天安門事件の混乱で終わったが、天安門事件後、90年代の中国では、事態収拾のためイデオロギー強化のキャンペーンが行われた(「ブルジョワ自由化反対」)。更に、1994年には、建国45周年を記念して「愛国主義運動」が開始された。その時期はちょうど日清戦争100周年にも当たり、ナショナリズムを若い世代に教育するため様々な記念活動が行われたほか、北洋艦隊や馬関条約について研究報告活動が行われた。こうした中で、曾國藩等の洋務運動に従事した清朝官僚を批判する論文も人民日報にあらわれ(1996年8月27日付人民日報論文)、この洋務運動の評価がなおホットイシュー(「熱点」)であることを示している。

 

 

 

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