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最近の中国の清末海軍史研究について

 

王 蒼海

 

中国海軍の沿革については、既に「うみのバイブル第2巻」に於いて平間洋一・防衛大学教授が論文を発表されている。本稿では、中国の最新の海軍史研究をとりあげながら、中国がこれまで如何に自らの近代の海軍史を位置づけてきたか、簡単に紹介し、それがその当時の戦略観とそれぞれ密接な関係を有していたことを示したい。

中国の1980年代は、改革開放の流れが紆余曲折を経て、天安門事件の混乱の中で終わったが、天安門事件後、90年代の中国では、事態収拾のためイデオロギー強化のキャンペーンが行われた。特に、1994年には、建国45周年を記念して「愛国主義運動」が開始された。また、90年代は、沿海部の工業発展とそれに伴う資源確保の必要性から、「領海法」の制定(1992年)やいわゆる海空軍力の強化を主張した「劉華清論文」(1993年)に見られるように、海上権益や海軍戦略に本格的な注目が集められていった時期でもあった。マハンの海軍戦略論が本格的に再紹介・再認識されたのも90年代である。

本稿では、近代から90年代までの中国の海軍史研究を回顧して、これまでのイデオロギー的な歴史研究から脱皮した最近の新しい戦略的な海軍史研究まで紹介する。そして、海軍史観にあらわれた現代中国の戦略を分析してみる。

 

一 洋務運動と海軍

 

清朝末期の「洋務運動」(1861年から1895年まで)は、第一次阿片戦争及び第二次阿片戦争(アロー号事件)後の中国を取り巻く国際情勢に対応するために、「中体西用」あるいは「西洋の技術を導入して西洋に抵抗すること」(師夷抵夷)をスローガンに行われた種々の改革の動きである。

 

 

 

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