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すなわち、1]物資と人員の輸送路2]外交目的のための軍隊の輸送路、あるいは陸上または海上にある攻撃目標に対しての使用3]海洋資源の開発である*26。マハンが着目した海洋の重要性を敷衍したブースのこの要約は的確であり、将来とも十分な意味を持ちうると考えられる。

しかし、今後多岐に渡る任務の遂行が期待されている海軍力ではあるが、次のことだけは指摘をし、注意を喚起しておきたい。ブースは、海軍の機能を軍事的機能、外交的機能及び警察的機能の三位一体で示した。同時に彼は、海軍の本質は軍事的性質にあり、軍事的役割が三位一体の底辺をなすとしている*27。海軍のみならず、全ての軍事力は国家の敵を抑止し、これを撃破するのための戦闘を行うために存在するのである。このことこそが、軍事力の基本的目的であり、存立の理由(raison d'etre)であり、軍事力を整備・維持するために国家の資源を消費する正当性なのである。「軍事力は戦闘以外の多岐にわたる役割を演じるべきであろうか?」という問いには「まきにそのとおり。実施すべきである」とし、「では、その他の役割によって軍事力を定義すべきか?」との問いに対し「決してそうしては成らない」とした問答*28は、冷戦終結後の安全保障環境における軍事力のあり方、その整備と運用のあり方を的確に表現していると言えよう。将来に向けて軍事力は、より広範な役割を果たすことが期待されている。中でも海軍力は、常に政治に柔軟性を提供し、政治のもっとも有用な手段であった。このことは見通しうる将来において変わることはないと言えよう。それはマハンが提起した海軍の役割とは大きく異なるものである。マハンは、国家の発展に海洋の自由利用が如何に重要であるかを認識し、時代の要請から自国商船隊とこれを防護する海軍による海洋の利用を提起し、当時、適用可能であったクラウゼヴィッツの理論に基づき海軍の戦略概念を規定したのである。しかし、海洋と海軍を取り巻く環境は、明らかにマハンが想定した時代とは異なったものとなっており、海洋の利用の手段も海軍に期待する役割も当然変化せざるを得なかったのである。しかし、国家の発展のためには、海洋の自由な利用は依然極めて重要であり、海軍力は政治にとってもっとも有用な道具であり続けよう。

 

 

 

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