4 ポスト冷戦期の海軍
1989年の米ソ両国による冷戦の終結宣言、1990年のソ連そのものの崩壊によって安全保障環境はドラスティックに変化した。米ソ間の核の対立は消滅し、自国本土に対する直接的軍事上の脅威は大幅に低下したとされている。そのような安全保障環境の中で、海軍にとってブリーマーが指摘したように水平線上に認識しうる敵は全く存在しなくなってしまったのであろうか。1997年の米国国防報告は冷戦後の国際情勢を決のように分析する。
かつては、米国の安全にとって周縁的なものと考えられてきた事件、たとえば民族的宗教的対立の拡大、法と秩序の崩壊、遠隔地に於ける貿易の崩壊などは米国への現実の脅威となりつつある。
・ リージョナル・パワーが侵路あるいは威嚇によって米国の国益に敵対し、地域の覇権を獲得しようとする試み
・ 無実の市民の生命を脅かし、大量の難民を発生させ、国際的秩序、安定を損なうような人種、民族、宗教あるいは部族グループ間の対立
・ 大量破壊兵器及びその運搬手段を獲得し、使用しようとする潜在的敵対者による脅威
・ 旧ソ連、中央及び東ヨーロッパ並びいかなる所であれ民主化、国家の再建に対する脅威
・ テロリズム
・ 友好国を弱体化させる転覆(subversion)と無法化
・ 米国資産と経済の発展に対する脅威
・ 地球規模の環境破壊
・ 不法な麻薬取引
・ 国際犯罪
ここに列挙された事態は、伝統的な意味における国家に対する直接的、死活的な脅威ではない。ブレナン(Donald Brennan)が主張する国家の「物理的生存」、「政治的生存」及び「生活水準の生存」*22のうち、海外にある自国民の生命、財産の保護以外は、国家の「政治的生存」、「生活水準の生存」に対する脅威である。