日本財団 図書館


すなわち、1]多様性、2]制御性、3]機動性、4]兵力投入能力、5]通航性、6]象徴性及び7]航続力である*20。これら7項目は、独立したものではなく、相互に作用し合い、制御性へ収斂すると言えよう。制御性は、艦艇が保有するエスカレート機能と撤退容易性(withdrawability)とに基礎を置いている。艦艇の種々の組み合わせにより、政治の要求に応じて段階的に兵力を増すことができ、かつ陸上における国際的なチキン・ゲームにつきものの「コントロールを失うことによって生じるリスク」を伴うことなく意志を表示し、テストすることが可能なのである。さらに、地上部隊または航空機とその支援部隊の場合より、より迅速に、より少ない経費でしかもより体面を損なうことなく、すなわち退却という汚名を被ることなく表面上のコミットメントから撤収することが可能である*21。「軍事力の限定使用」に海軍が最も適する理由として、これに次を加えておきたい。「持続性」である。艦艇は、言うまでもなく、所要の乗員、弾薬、燃料、糧食を搭載して、相当期間独力で行動でき、万一被害にあった場合でも自力で可及的速やかに回復できるよう設計されており、また乗員もそのように訓練されている。したがって、事態への即応性に優れ、対応の遅れによる不利益を政治にもたらさないのである。フォークランド(アルゼンチン名、マルビナス)紛争発生直後に、英国は訓練出動中の原子力潜水艦3隻を訓練海面から直接フォークランド周辺海域へ展開させたのはその好例である。

 

表:海軍の機能

100-1.gif

出典:Booth, Ken, Navies and Foreign Policy, London: Croom Helm Ltd., 1977, p.16.

 

このように、米ソ2極対立という冷戦構造は、海軍に対して艦隊決戦によるシーパワーの増進ではなく、特定の政治目的を達成するための最も効果的な手段としての役割を期待したのである。この点に着目したブースは、Navies and Foreign Policyの中で海軍の機能は右表に示したような軍事的役割、外交的役割及び警察的役割の三位一体であるとした。彼は、海軍の本質は軍事的性質にあることから軍事的役割が三位一体の底辺をなすものとした上で、海軍の外交的役割の重要性を強調したのである。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION