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冷戦後のシーパワー

-海軍力の役割を中心として-

 

防衛大学校

山内 敏秀

 

1 はじめに

 

1954年、ハンチントン(Samuel P. Huntington)は、第二次世界大戦後の安全保障環境はマハン(Alfred Thayer Mahan)が提起したシーパワーの概念を終焉させ、海軍はその存立そのものが問われるアイデンティティの危機に直面していると指摘した*1。海軍が直面した危機とは、軍隊が明らかにしなければならない国家が政策を遂行する上での軍隊の目的あるいは役割、すなわち国家に対する脅威からいつ、どこで、どのようにして国家を守るのかを表現した戦略概念(strategic concept)をマハンの提起したシーパワーの概念からは提起できなくなったことである。

それから、約40年後、ブリーマー(Jan S. Breemer)は、第二次大戦直後における海軍の目的が不明確であるという問題は今日(1990年代前半:筆者注)海軍を襲っているアイデンティティの危機に比べればさしたる問題ではなく、その時の危機はシーパワーの圧力を免れていた潜在的な脅威が出現したに過ぎず、今日の危機は認識しうる全ての敵が消滅してしまったことにあるとする。*2

マハンは、シーパワーを支える基盤として海軍力を重視している。冷戦後の安全保障環境において、海軍がその存立を問われるとするならば、シーパワーもまたその意義を失う危機に直面しているのであろうか。それはなぜなのか。第二次世界大戦終結直後と比較して本当により深刻な危機に海軍は直面しているのであろうか。

これらの疑問に答えるため、マハンの2つの主題に沿って考えてみたい。第一項では、マハンの第一主題である海洋の利用が国家の発展に及ぼした影響について冷戦期以降の今日的意義について検討する。第2項では、第二主題である艦隊決戦による制海の検討を通じて海軍力の役割について再検討する。この際、冷戦期と冷戦後に時代画期する。

 

 

 

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