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東シナ海では、日中の沿岸警備当局者間で対話が続き、さらには、中台間の非公式な話し合いの場でもこの海賊問題が取り上げられることが望ましい。クアラ・ルンプールの域内海賊センターにおいては、引き続き現行の努力を続け、これがやがては域内全体の海上協力として海賊問題が議論されるよう促して行くことを期待したい。CSCAPが新しく提案した『域内海上協力のためのガイドライン』は、「海賊行為や、麻薬の密輸、その他の海上犯罪の発生を抑止するために、海上における法秩序の維持のため各国が協力することの重要性」を明確にしている。

おそらく、東アジア地域(さらには世界)におけるSLOCsの安全とアクセスをめぐる長期的に重大な脅威は、「管轄権をめぐる」各回の措置("creeping jurisdiction")が伝統的な海上の自由航行を制約するケースであろう。提案されているさまざまな制約は、安全性の確保や環境保護に資するものがほとんどだが、それが積み重なってSLOCsへのアクセスを制約することになれば、SLOC輸送に自国の経済成長を依存させている域内諸国にとっては好ましい結果をもたらさないであろう。第一に、域内の海峡隣接諸国から出されている提案には、国際海事機関(IMO)の定める安全基準や、航路帯区分に関する国際規則を超え、通過する船舶に付加的な制約を課したり、ある場合には、確立された国際海峡の通過にさえ通行料を課すものも見られる。かかる提案は、他の域内諸国や大国から激しい反発を買っている。1994年11月に発効した国連海洋法会議でも最近採択された(そしてしばしば他国と重なり合う)排他的経済水域(EEZs)における航行制限を試みる動きが多く見られた。とくに、インドネシアが、新たに群島シー・レーンを宣言するとともに、船舶航行を3つの南北シー・レーンに限定することを提案したため、同国と他の多くの国々との間で議論が紛糾した。13最後に、以下に論ずるように、1995年12月15日、バンコクで開かれたASEAN首脳会議の席上、締結された東南アジア非核地帯(SEANWFZ)条約に盛り込まれた不幸な文言によって惹起された海上の自由をめぐる米国や他の主要国の懸念について触れなければならない。

 

SLOCsの安全とアクセスに関する米国の懸念

米国は過去18か月の間に、3度、域内SLOCsにおける航行の自由という伝統的な原則を確立するための同国のコミットメントを改めて協調した。米国務省が1995年5月に発表したスプラトリー諸島をめぐる政策綱領は、航行の自由を米国の基本的な利益であると規定した。14また、1995年2月に国防総省より発表された報告書『東アジア太平洋地域に対する米国の安全保障戦略』は次のように述べている。

 

13 John McBeth, "Water of Strife," Far Eastern Economic Review, February 29, 1996, p.30.

14 U.S. Department of State, United States Policy on the Spratleys and the South China Sea, May 10, 1995.

 

 

 

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