東南アジア、北東アジア、インド洋をつなぐ海上交通路を維持するという我々の戦略的利益は、すなわち、我々をして海洋法が保障する範囲を超えた海洋の権利に対しあくまで抵抗することを命ずる。
さらに、米国は(他の主要国とも共有する見解として)、1995年12月に発表された政策綱領において、ASEAN諸国によって締結された東南アジア非核地帯条約(SEANWFZ)の文言に対する不満を表明した。この条約には、核保有5大国による署名の余地を残す議定書が含まれていた。米国は、フランスや英国とともに、同条約の前身である南太平洋非核地帯条約(SPNFZ)への署名を96年前半にも行うことを誓約しており、SEANWFZ条約が米国の安全保障上の懸念に応えるものであることを理由に同条約に対しても肯定的に捉えていた。しかし、海洋の自由という基本原則に対する米国の重大な関心が、結局は次のような公式声明につながった。
現時点での我々の同条約への支持を控えさせる最も重要な争点の一つは、EEZsと大陸棚を条約の定める「非核地帯」に含むという条項の存在である。我々は、これは国際的に認められた公海上の航行およびその上空の飛行の自由に反するものと考える。SEANWFZ条約は、それが公海上の自由が存在する海域においてさえも条約を締結していない国に対し同意なしに一定の義務を課すという点において、国連海洋法と矛盾し、それはまた不幸な前例をつくりだすことになると考える。さらには、条約の及ぶ範囲をEEZsや大陸棚にまで拡大することは、同地域に国境線の不明確さゆえに、新たな紛争をもたらす可能性があることを懸念する。(中略)そもそも条約範囲にEEZsや大陸棚を含むのは、当該水域における公海上の航行および飛行の自由原則に矛盾する。各国の領海を超えた世界中の海域で行使されるこれらの権利は、いかなる国の艦艇や軍用機に対しても、それが他の国の諸権利や安全な活動、そして艦隊・航空作戦の妨げにならない限り、あらゆる機動部隊の活動や航空作戦、訓練演習などの実施を許している。また、特定の海域(および空域)での作戦に参加する艦船や軍用機が(ある海域を)通過する際にまでこれらの活動に従事する必要はないのであるから、同条約に定める「通過に認められる権利」は、多目的艦艇に必要とされるこれらの活動に対する規制問題を直接に解決するものではない。もちろん、現行の条約規定は、他の航行上の権利、たとえば、領海や群島水域の無害航行、国際海峡の通過に関する権利、群島に沿ったシー・レーン航行の権利、などに制限を加えるものではないが、先にも述べたように、我々は、同条約が公海上の自由航行にもたらす影響に大きな懸念を抱いている。15
結論
日増しに高まる東アジア地域SLOCsの安全とアクセスをめぐる重要性は、域内諸国に対し、航行の自由に対する軍事的、非軍事的な関心を喚起した。域内SLOCsの安全とアクセスの確保をめぐり東アジア諸国と利益を共有する米国は、海上貿易を支える航行の自由という伝統的な原則を確立するために、地域諸国が協調と理解を深め、協力し合って行くことを大いに歓迎するものである。
邦訳:長島昭久(米外交問題評議会アジア安全保障研究員)
15 U.S. Department of State, "U.S. Position on Southeast Asia Nuclear Weapons Free Zone," December 15, 1995.バンコクで行われたASEAN首脳会議における1995年12月15日の議長声明が「SEANWFZ条約の議定書は更なる見直しをしていく」としたことは銘記しておく必要がある。