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しかしながら、第5表が示しているように、1994年の香港、ルソン島、海南島海域(HIH)では、93年から半減したものの、依然として相当多くの事件が発生しており、また、インドネシア海域では、94年には93年の倍、96年には海賊事件が著しく増大した。これらのトレンドは、海賊問題が地域の安全保障にとって、より大きな意味合いを持っていることを示唆している。一方、アジア太平洋地域諸国の間の協議や協力が海賊行為の撲滅に役立っていることは紛れもない事実である。マラッカ、シンガポール海峡における近隣諸国による国際協力や協調的な措置が、近年、海賊件数を大幅に減少させた。1992年はその点で画期的な年であった。92年10月、国際海事局(IMB)の国際商工会議所は、国連海事機構(IMO)や法執行機関の協力の下、マレーシアのクアラ・ルンプールに「地域海賊センター」を設立した。この地域海賊センターは、南はスリランカから東南アジア、極東地域のすべての国々をカヴァーする情報収集、被害報告センターとして機能し、地域の執行当局への連絡事務所の役割を果たすこととなった(センター自体は法執行能力を持たない)。12それより前、1992年の夏には、シンガポールとインドネシアが両国海軍の間に直接のコミュニケーション・リンクを設定することに合意し、海賊からシンガポール海峡の輸送レーンを守るため両海軍による合同のパトロール部隊を派遣することにも合意した。そこでは、それぞれの船舶が相互の領海に侵入した場合の規則も定められた。その後、1992年12月には、インドネシアやマレーシアが、古くからあった海上協力に関する合同国境委員会のメカニズム(ここでは、すでに、マラッカ海峡における合同海軍・警察行動や、情報交換のために定期的に海上で接触する手順などを規定していた)を利用して、合同海上行動計画ティームを結成し、両国国境沿いのマラッカ海峡水域における合同パトロールを実施することを決めた。1993年の半ばには、両国は、マラッカ海峡で10日間の合同パトロール演習を実施した。これら一連の協調的措置、および、シンガポール、マレーシア、インドネシア各国が独自に行う海賊取締り努力の結果、1992年以降マラッカ、シンガポール海峡における海賊発生件数は大幅に減少した。

しかしながら、アジア太平洋地域では、まだまだ広い範囲で海賊との闘いをめぐる国際協調の余地が残っている。マラッカ、シンガポール海峡では、シンガポール、マレーシア、インドネシアが「合同パトロール海域」を設定することに合意している。同海域では、相互に他国の領海に入って海賊の取締り、逮捕、制裁行動が許されるというものだ。南シナ海では、インドネシアが主宰する第5回「南シナ海における潜在的な紛争対策」ワークショップに提出された論文が、「海賊行為や麻薬の密輸と戦うために、各国の海軍や取締り当局が協調、調整すべきこと」を提案した。1992年の第3回「南シナ海ワークショップ」では、参加者から「海賊問題は、地域的な取り組みが有益だという見解もあるが、国家レヴェルで取り組むのが最も効果的である」との指摘もなされた。

 

12 IBRU Maritime Briefing 1994, p.18.

 

 

 

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