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経済的生命線としてのSLOCs

第1表は、およそ1兆ドル規模の国際貿易が東アジア地域のSLOCsに依存していることを示している。その内、北東アジアに関わる貿易規模だけでその半分を占めている。3国際通貨基金(IMF)のデータを使った第2表は、年間貿易に見る国別の域内SLOCs依存度を明らかにしている。これには海上輸送をともなう国内貿易のデータは含まれていないにもかかわらず、ASEANや北東アジア諸国が域内SLOCsへいかに大きく依存しているかをはっきり示している。4輸出依存型の成長を遂げる東南アジア諸国連合(ASEAN)や東アジア諸国が、SLOCsの安全とアクセスの確保、つまり本質的には航行の自由、にかなり依存していることがわかる。別の視点から見れば、これらの域内SLOCsを利用して行われる貿易のGDPに占める割合は、韓国、香港、台湾で21%以上、オーストラリアで12%、そして日本で10%である。5第2図から第4図は、北東アジア諸国の産業を支える原油、石炭、鉄鉱石などを運ぶ北周り、および、東アジアから東南アジアやヨーロッパへ主として工業製品を運ぶ南周りの東アジアSLOCsをそれぞれ示している。第1表には米国の貿易データは含まれていない。米国の全輸出入の約4%が東南アジアSLOCsに、西海岸から北東アジアを結ぶ太平洋横断SLOCsにはさらに大きく依存している。1995年に米国の対アジア輸出は25.8%も増え、それは地域別に見ても最高の伸びを示し、総計1980億ドルはヨーロッパ向けのそれを500億ドルも上回り、米国内で380万人の雇用を創出したとされる。6米国の同地域のSLOCsに対する経済的利益が増大していることは明らかである。とくに、米国の貿易相手国が打撃を受ければそのインパクトは計り知れない。

アジア太平洋安全保障協力評議会(CSCAP)の海上協力ワーキング・グループが提案した『域内海上協力のためのガイドライン』は、「自由で阻害されない海上貿易の流れを確保するための安定した海上秩序を同地域につくりだすことを助ける」という一つの大きな目的を掲げている。

 

軍事的な懸念

SLOCsがASEAN諸国や他の地域大国-米国、中国、韓国、ロシア、日本-に与える経済的な重要性に鑑みれば、論理的には、いずれの国も域内SLOCsに軍事的脅威を与えることによって得られる利益はない。

 

3 Kenny, p.5.

4 Kenny, p.17.

5 Noer and Gregory, p.25.

6 John T.Dori, "Trade with Asia Means Jobs for America, " FYI, no.19, September 16, 1996, The Heritage Foundation, Washington, D.C.

 

 

 

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