海上交通路(SLOCs)の安全とアクセス*
スタンレー・ウィークス
(国際応用科学研究所国防アナリスト)
背景
海上交通路(Sea lines communication, SLOCs)の安全とアクセスの確保は、今日ますます重要になっている。なぜなら、それらシー・レーンが北東アジアのみならずアジア太平洋地域全体の急速な成長にとって欠くことのできない膨大な物資輸送を支える海上のハイウェイにあたるからである。SLOCsの安全とアクセスに対する脅威には、軍事的なものと、非軍事的なものとがある。前者には域内国による紛争や機雷の敷設などがあり、後者は自然災害、事故、海賊、そして域内国が管轄権をめぐって("creeping jurisdiction")設定する規制措置である。東アジアのSLOCsに通商および安全保障上の利益を依存する米国は、同地域に展開するSLOCsをめぐる「航行の自由」という伝統的な原則を確立するためのコミットメントを、過去18か月の間に3度にわたって強調してきた。そして、このコミットメントは東アジア諸国も等しく共有すべきものである。
SLOCsと東アジアにおける重要な海峡
第1図は、東アジアにおける主要なシー・レーンおよび重要な海峡を示したものである。南シナ海、(フィリップ運河とシンガポール海峡を含む)マラッカ海峡、スンダおよびロンボク海峡である。1世界の商業用船舶の半数以上が、北東アジア諸国と他地域を結ぶこれらの海峡や南シナ海を通過している。インド洋と南シナ海を結ぶマラッカ海峡を通過する船舶は一日200隻を超える。比較的浅く(国際海事機関が奨励する最大のドラフトでも19.8mに過ぎない)海峡の東端では幅1.5マイルに過ぎないマラッカ海峡は、スーパー・タンカーも楽に通過できる水深150mを誇るロンボク海峡へと連なっている。また、スンダ海峡の北端は、比較的浅く、危険な海流条件であるため、100,000トンを超える船舶はロンボク海峡を使用することになる。2地中海よりも広い南シナ海は、スマトラ島から台湾まで実に1,800マイル以上にも及び、そこに展開する東南アジアと北東アジアを結ぶSLOCsの主要な航路帯は、領土紛争が続くスプラトリー諸島の西側を横切っている。
*本論文は、1998年2月に発行された米カリフォルニア大学世界紛争協力研究所(IGCC)政策ペーパー第33号『北東アジアにおける海上交通:海洋法、シー・レーン、そして安全保障』から抜粋(55-69頁)したものである。著者のスタンレー・ウィークス博士(退役米海軍大佐)は、海上交通に関わる安全保障分野では米国における第一人者である。
1 Henry J. Kenny, An Analysis of Possible Threats to Shipping in key Southeast Asian Sea lales, Center for Naval Analyses, Alexandria, VA, February 1996,p.3.以下の議論はこの第一図とともに、次に掲げる著作から転載された図によるところが大きい。John H. Noer and David Gregory, Chokepints:Maritime Economic Concerns in Southeast Asia, National Defense University Press, Washington, D.C., October 1996.
2 Kenny, p.4.