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第二の問題は、1994年11月に発効した国連海洋法条約(the UN Law of the sea convention)である。この条約により、新たに宣言された(かつしばしば重複する)排他的経済水域(EEZ: Exclusive Economic Zones)での航行に制限を課そうとする試みが増加し、インドネシアと他の多くの国との間に大きな紛争が生じた。この紛争はインドネシアが新たなシーレーンを宣言し、南北に走る3つのシーレーンの利用のみを許可するという提案を行ったために生じたのである。

 

さらに、以下に見るように、米国と他の主要大国が懸念している海の自由に対する制限の問題がある。これは1995年12月15日のバンコック・サミットでASEAN諸国によって締結された東南アジア非核地帯条約(SEANWFZ: Southeast Asia Nuclear Weapons Free Zone)から生じたものである。

 

SLOCの安全とアクセスに対する米国の懸念

 

米国は過去18か月の間に3回もSLOGでの航行の自由に対するコミットメントを強調した。米国国務省が1995年5月にスプラットリー諸島をめぐる紛争に関して発表した政策声明では、航行の自由は米国の「根幹にかかわる利益(fundamentalinterest)」であると明言されている。また、1995年2月の国防長官による「米国の東アジア・太平洋地域の安全保障戦略」では次のように記されている。

「われわれは東南アジア、北東アジア・そしてインド洋を結ぶシーレーンの維持に戦略的利益を持っている。したがって、海洋法条約の許容範囲を越えるいかなる海洋宣言に対してもわれわれが抵抗することは、本質的に重要(essential)なことである。」

 

さらに、1995年12月、米国はASEAN諸国によって締結されたSEANWFZ条約の文言に不快感を示す声明を発表した。こうした不快感は他の主要大国の間にも存在するものである。このSEANWFZ条約には、5大核保有国の署名を求める議定書が含まれているが、1995年10月20日、米国はフランスおよび英国とともに、1996年前半までに(SEANWFZ条約以前の)南太平洋非核地帯条約(SPNFZ:South Pacific Nuclear Free Zone)に署名することを表明し、米国の安全保障にも見合うSEANWFZ条約についても「前向きに検討する用意がある」と表明した。しかし、海洋の自由という基本原則を重視する米国は、結局以下のような公式声明を発表するに至った。

 

「われわれがこの(SEANWFZ)条約を現時点で支持できない理由は、同条約には排他的経済水域および大陸棚が含まれているということである。これは国際的に認められている公海における航行および飛行の自由と相容れないものである。われわれは、同条約が公海における自由の存在する地域で非加盟国に対して安全保障義務を課す限りにおいて、同条約は国連海洋法条約とは相容れないものであり、不幸な前例を生むものである、と感じている。さらに、この地域には領有権宣言の争いをめぐる不確実性が存在するため、同条約を排他的経済水域および大陸棚にまで拡張することは、紛争の原因となりかねない。....排他的経済水域および大陸棚を同条約に含めることは、この地域およびそれ以外の地域における航行および飛行の自由とは相容れないものである。

 

 

 

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