1992年の12月には、今度はインドネシアとマレーシアが、海洋協力のための合同国境委員会(Joint Border Committee)という既存の枠組みを通じて、マラッカ海峡の両国共通の国境沿いの警備を調整するための合同海洋作戦計画チーム(Maritime Operation Planning Team)の設置を合意した。なお、海洋協力のための合同国境委員会には、マラッカ海峡での合同海軍・警察演習/作戦が含まれている。さらに、1993年の半ば、両国は合同海洋作戦計画チーム合意に基づき、マラッカ海峡で10日間の合同警備演習を行った。
こうした協調的措置、およびシンガポール、マレーシア、インドネシア政府によるそれぞれ個別の措置の結果、1992年以降、マラッカ海峡とシンガポール海峡の海賊問題は激減したのである。
しかし、アジア太平洋地域の海賊対策の協力にはまだかなりの余地がある。マラッカ海峡とシンガポール海峡については、シンガポール、マレーシア、インドネシアの3国が共同警備地域を設け、警備権、逮捕権、海賊行為に対する処罰権を許容し合うべきだ、という提案がある。
南シナ海については、インドネシアの主催した第5回南シナ海潜在的紛争管理ワークショップに提出された論文の中に、同地域の海賊・不法薬物密輸に対処する海軍や政府機関の調整・協力の必要性を指摘する提案があった。1992年の第3回南シナ海ワークショップでは、海賊問題は一国レベルで最も効果的に対処できるという意見と、こうした問題には地域レベルで対処する方が好ましいという意見の両方が表明されたとういうことである。
東シナ海地域では、中国と日本の沿岸警備当局間の対話、および海賊問題を中国と台湾の間の海峡問題非公式協議で扱うのが有用であろう。クアラルンプールの地域海賊センターもますます発展するべきであり、将来の海洋協力アジェンダに海賊問題を含める一つの契機となりえる。最近提案されたCSCAPの「地域的海洋協力のガイドライン」も、海賊、麻薬密輸、その他の海洋犯罪の防止などを目的とする海洋の法と秩序の維持・執行の重要性を明確に認識している。
おそらく、東アジアのそしてグローバルなSLOCの安全とアクセスに対する最大の脅威は、「忍び寄る管轄権」から生じるであろう。こうした管轄権を主張する諸国家は、伝統的な海の自由に制限を加えるような行動をとる。むろん、中には航海の安全性や海洋汚染の対処など良心的な動機から制限を加えるべきだ、という主張する国家も多い。しかし、総合的に見ると、地域の諸国家にとっては潜在的にきわめて有害な形でSLOCへのアクセスが制限されることになるであろう。こうした諸国家の経済発展がSLOCの海運に大きく依存していることを考えると、なおさらである。
第一の問題は、IMOによる安全性規制と通路分離線(traffic-lane demarcations)を拡張し、今まで国際海峡として認められてきた海峡の利用についても通行料を徴収するなど、海峡を航行する船舶にさらに制限を課すべきだ、と主張する提案が複数あるということである。現在までのところ、他の地域諸国および主要な大国はこうした提案に激しく抵抗している。