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「南沙諸島に対する主権および海洋権利・利益を守る一方、中国は国際法にしたがい、外国船舶の国際的航行ルートおよび飛行機の国際的飛行ルートにおける通行の自由の保障という義務を遂行する所存である。」(中華人民共和国外務大臣、Beijing Review、1995年5月)

 

しかし、1996年諸島の中国による台湾の沖合で行なわれたミサイル発射はこうした懸念を再発させることとなった。台湾とスプラットリー諸島の潜在的紛争は大きな懸念ではあるが、最悪の場合でもSLOC妨害には自ずと幾つかの限界がある、ということは認識しておく必要がある。こうした限界は、主要なシーレーンがスプラットリー諸島の西側から台湾の西側にかけて走っているという事実から生じる。もう一つの懸念は、重要なSLOCOに、とくにASEAN地域の海峡に機雷が散布されることである。この地域の国すべての経済的利益を考えれば、国家が明示的に機雷散布を行うことは考えにくいし、あるいは秘密裏に機雷散布を行う合理的理由そのものはもっと見出しがたい。ASEANの沿岸地域やマラッカ海峡の入り組んだ、比較的浅い地域では機雷は大きな脅威となるであろうが、スンダ海峡とロンボク海峡の海流と水深のために機雷の効果は低下するであろう。

 

要するに、ASEANと東アジア地域のSLOCこ対する潜在的な軍事的脅威は、確かに存在するが、それが実際に生じる可能性、あるいは実際に生じた場合の海運の被る直接的影響は、かつて予測されたほど大きくはないであろう。むろん、SLOCに対する軍事的妨害やそうした脅威による保険費用の増大、海運ルート変更による時間と費用の増大、といった間接的なコスト増大は、比較的大きな懸念として指摘できよう。

 

非軍事的懸念

 

SLOCの安全とアクセスに対する非軍事的な懸念には、自然災害、事故、海賊行為、地域諸国の「忍び寄る管轄権」がある。東アジア地域の自然災害には、とくに平均9回の台風がある。これは毎年南シナ海を襲い、重要な海峡の北方を襲う。自然災害とは異なり、衝突や坐礁などの事故は慎重な運航とマラッカ海峡の交通分離帯(trafic separation lanes)などの措置によって削減することができる。しかし、石油流出による汚染の危険は航行量の激しい東アジア地域のSLOCには深刻な問題である。

 

海賊もASEAN地域のSLOCにとっては深刻な危険である。これはとくに船舶乗員の生命だけでなく、同地域を航行する他の船舶にとっても脅威である。この地域にはいくつかの危険地帯(hot spots)があり、国際海洋局(IMB: International Maritime Bureau)の海賊に関するデータによると、1992年から1993年にかけて世界で起きた海賊事件の3分の2がアジア太平洋地域で起きた。さらに、1994年のデータでは、同年世界で起こった87件の海賊被害のうち71件がこの地域で起こったものである。しかし、後述するように、1990年から1992年にかけてのマラッカおよびシンガポール地域の新たな国際協力措置によって、同地域の海賊行為は激減したのである。

 

 

 

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