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このため、より大型のタンカー航行には水深150メー卜ルのロンボク海峡の利用が好まれている。スンダ海峡の北部も比較的浅くなっており、また海流も船舶航行には危険な状態である。このため、10万DWTを越える船舶はロンボク海峡を通過しなくてはならない。しかし、そのロンボク海峡もスンダ海峡より150マイル長いだけであり、喫水の制限はない。南シナ海は地中海よりも長く、スマトラから台湾まで1800マイルを越える長さで伸び、東南アジアと北東アジアを結び付けている。これらの地域には、紛争地帯であるスプラットリー諸島の西側を走る航行ルートが多数位置している。

 

経済の生命線としてのSLOC

 

米国海軍分析センター(CNA)のデータによると、1994年には何兆ドルに値する国際貿易が東アジアの主要なSLOCを利用した。その大半が北東アジア貿易で占められている。また、IMFの国別のSLOC使用頻度のデータによると、輸出主導型の経済発展をしているASEAN国と東アジア諸国はSLOCの安全とアクセスそして航行の自由に大きく依存している。また、同じデータを貿易量のCDPに占める割合という視点から見ると、21パーセントを越える国には韓国、香港、台湾があり、10パーセントの国には日本、12パーセントの国にオーストラリアがある。また.貿易物資の観点から見ると、北東アジアの貿易は原油、石炭、鉄鋼によって占められ、東南アジアの貿易は製造品によって占められている。米国は東南アジアのSLOCに依存しているが(輸出入の約4パーセント)、西海岸から北東アジアにかけて走る太平洋横断SLOC(trans-pacific SLOC)に大きく依存している。実際.1995年のデータでは、米国の対アジア輸出は25.8パーセントの増加を示した。金額は1930億ドルで、米国内に380万の雇用を創出したことになる。このように、明らかに米国のアジアSLOCにおける経済的利益は増大しているのである。したがって、特に米国の貿易相手国の被る妨害は、米国のSLOCの安全を脅かすことになるのである。

 

CSCAPの海洋協力作業グループの提案による「地域的海洋協力のガイドライン」には、「海上貿易の自由かつ円滑な推進を行うための安定的海洋レジームの促進」という目的が明言されている。

 

軍事的懸念

 

以上から、SLOCの経済的重要がいかに大きなものであるかがわかる。したがって、ASEAN、米国、中国、韓国、ロシア、日本などの主要な地域の大国がSLOCに軍事的脅威を与えることには利益を見出さない、と言えよう。しかし、紛争というものは通常、経済的利益とは無関係のロジックで発展するものである。潜在的な紛争のシナリオの中で最も可能性の低いものは、ASEAN諸国内部の紛争と同地域のシーレーンに対する攻撃である。むしろより大きな懸念は、とくにASEAN諸国については、台湾やスプラットリー諸島を巻き込んだ領土問題、あるいはヴェトナムを巻き込んだ油田問題をめぐる中国や他の国によるSLOC妨害である。1995年4月の中国の外相による声明は航行の自由に対する脅威を以下のように否定している。

 

 

 

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