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また、1994年のデータでは、約1400万TEUの貨物がヨーロッパで輸送され、1200万TEUが米国で、600万TEUが日本で、そして1000万TEUが東南アジアで輸送された。1996年以降の貨物輸送の伸び率を7-7.5パーセントとすると、ヨーロッパで2000万TEU、米国で1800万TEU、日本で900万TEU、極東アジアで1800万TEUの輸送量になる。これに中国を加えるとその量は着実に増加する。

 

こうした貨物を輸送する船舶の国籍も多様化している。パナマとリベリア国籍の船舶は依然最も多く、6000から7000万粗登録トン(gross registered tonnage)を保っている。さらにギリシャの3000万トン、バハマとキプロスがそれぞれ2500万トンと続いている。中国は自国船籍として1700万トン、香港国籍を用いてさらに700万トンの輸送量を記録している。この他、日本が2000万トン、マルタが1800万トン、ロシアが1500万トン、シンガポールと米国がそれぞれ1300万トンとなっている。以上のデータは登録船籍の多様化を示すものであるが、船舶所有による利益が誰のもとに流れるかは別の問題である。

 

国旗を掲げた船舶の数もまた、別に検討するべき問題である。なぜなら、船舶における国家の活動を見る指標として、船籍数を用いるべきか、あるいは旗トンの総量を用いるべきか、という問題があるからである。たとえば、国旗の数で見た場合、日本船籍は9438隻、パナマ5777隻、米国5292隻、ロシア5261隻という順番になっている。これに対し、国旗を掲げた船舶の平均規模を見ると、リベリア国旗を掲げた船舶は約38000粗登録トンであるのに対し、日本はわずか2100トンである。商船一隻の国籍を正確に把握することさえ実に厄介な問題となっている。エバール海将(Admiral Eberle)の次の発言は、この問題の難しさを端的に表現している。

 

「ある商船は.所有者が英国、運用資金の出所がヨーロッパ、登録はバハマ、乗員は香港人、保険はロンドン、輸送物資は日本製自動車でそのエンジニアはドイツ人、という構成で成り立っている。この場合、誰の利益が最大のダメージを被るのであろうか。

 

こうした複雑な事情は、近代海運という高度に国際化した産業の自由な活動を妨害する試みの狙いどころを曖昧にするものであるが、妨害の試みが海洋活動に与える影響を過小評価してはならない。10年前だったら、私はエバール海将の先の問いに対して「その大半が(自分自身ではなく)他の誰かがこうした状況を解決してくれるだろうと期待する多くの人々」と答えていたであろう。

 

1980年代の湾岸における事件は、海運妨害の問題の本質を示すものであると考えられる。一部の船舶は沈没させられたり回復不可能なダメージを受けたにもかかわらず、石油価格そのものはほとんど影響を受けなかった。しかし、それは米国が冷戦を背景に巧みに石油価格を低く抑えていたからであろう。当時の商船は米海軍によって効果的に保護されていたのである。イランが国際交渉のテーブルに着くことに同意したのは、米国がイランのシーレーンに深刻な脅威を与えたことが大きな役割を果たしたのである。

 

商船が地元の紛争に巻き込まれたり、紛争地域を通過しなければならないために生じる問題もある。

 

 

 

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