国家が商船に対する攻撃の脅威を政治的に利用することも十分考えられる。攻撃には様々な手段がある。海上のプラットフォームからのミサイルや魚雷の発射、あるいはもっとコスト効果のある機雷散布などがある。とくに、弾道ミサイル発射の脅威は自由航行を即座に妨害するのに効果的である。こうした脅威を回避する最良の手段は航行ルートを変えることである。しかし、航行ルート変更が常に可能とは限らない。その場合は、何らかの保護が必要になるが、やはり商船と軍艦の掲げる国旗の相違が問題となる。しかし、こうした問題は、経済に関しては海洋環境は自由なものである、という解釈の下、リベラルな形で対処される傾向にある。
脅威は国家によるものとは限らない。東アジア地域では、とくに海賊行為が問題である。1994年には87件の海賊行為が記録されたが、そのうち71件がアジア太平洋地域で生じた。海賊については国際協力によって対処されてきており、最近になってその効果が現れてきている。しかし、海賊行為は主権沿岸水域で生じることが多いので、国際協力は困難である。
もう一つの問題は、沿岸諸国が海洋法を自国の都合に合わせて解釈する傾向がかなり強い、ということである。こうした独自の法解釈のため、商船および軍艦の自由航行が妨げられるのは大きな問題である。地球面積の大半が海洋であり、海洋における自由航行が世界経済の最大効率のために不可欠であることを考えれば、海洋における自由航行の重要性はいくら強調してもしすぎることはないと言えよう。
最後に、自由航行を維持するための協力の必要条件について強調したい。「シー・パワーは自国の海軍と商船に代表される」という重商主義に基づくマハン的な考え方は、現在では通用しない。これはすなわち、海運の問題を一国のみが一方的に解決するということが、もはや妥当しなくなったことを意味する。したがって、国際的問題とは、様々なレベルで様々な形を通じて国際的に解決されるべき性質のものなのである。
出典:(sam Bateman and stephen Bates, eds., Shipping and Regional Security, Strategic and Defence Studies Centre, Australian National University, 1998,より。第1章(1頁-9頁))