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公海の自由航行プロジェクト提出論文(翻訳)

 

オーストラリアの海洋戦略

 

ロビン・リム博士(広島修道大学)

(潮 匡人 訳)

 

東アジアの安全保障は、アメリカ、日本、中国といった大国の関係に大きく依存している。緊迫する朝鮮半島情勢を別にすれば、迫りくる中国の脅威が、東アジアを脅かしている。オーストラリアは、南半球におけるアメリカの同盟国として、地域の安定のために、いかなる貢献をなし得るのであろうか。

ゼロ・サム・ゲームにおいて、他の利害関係を無視すれば、地域の軍事バランスだけが、中国の進出に対抗できる。こうした地域バランスを維持するためには、アメリカと東アジア地域の諸国との同盟関係が不可欠である。特に、オーストラリア、日本、韓国は、大陸国、島国、半島国である。生存のためには、海洋における安全が不可欠である。南シナ海と東南アジアの海峡を安全に通航できることは、安全保障上の死活的な要素である。同時に、公海における自由航行は、地球的な海軍力の展開を確保する上で、アメリカにとっての重要な国益でもある。

東アジアにおけるアメリカの同盟国は民主国家である。アメリカ同様、民主国家というものは、明白な脅威が無いときに戦略的な考えをするのは難しいものだ。明白かつ現在の脅威を持たない東アジアにおけるアメリカの同盟国は、分岐路に立っている。海上防衛を維持するために、より結集する必要がある。

オーストラリアは、遥かかなたの南海に位置しているわけではない。実際には、長い海岸線と海上輸送物資を通して、インド洋において戦略的役割を果たしている。また、オーストラリアはアセアン諸国と長年の安全保障関係を持っており、南シナ海とマラッカ海峡において戦略的役割を帯びている。これらの同盟関係は、東南アジアにおけるオーストラリアの影響力を与えている。それは日本に欠けている点でもある。たとえ日本の経済力がオーストラリアをはるかにしのいでいるとしても…。

アメリカを例外とすれば、オーストラリアは、遠方から東南アジアに影響力を行使できる唯一の国である。攻撃力としては、新しいコリンズ級潜水艦6隻とF111攻撃機を保有している。オーストラリアはまた、アメリカと両立しうる近代化した軍事技術を持っている。RMA(軍事技術革命)に参加することができる数少ない国の一つである。アメリカ、イギリス、カナダ、ニュージーランドとの情報関係は第二次世界大戦までさかのぼり、共通の価値と言語によって支えられている。オーストラリアは、アメリカ海軍力の機動性と柔軟性を強化する地球規模の情報力に価値ある貢献ができる。

 

 

 

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