ナツナ諸島のような固有の領土の保全に加えて、インドネシア海軍にとっては、海戦や不法漁獲行動のような脅威に対して、広大な領海内の国内のSLOCsや長大な海岸線を監視することが重要な任務となっている。予算の制約の中で、これを可能にするための方策として、旧東独からの中古艦艇の購入と改造が実行され、さらには米国からF-16、英国からHAWK100/200の購入が行われたわけである。たしかに、東独から購入した39隻の艦艇によって、インドネシア海軍の能力は急速に向上した。しかしながら、インドネシア海軍は、なお高性能な哨戒システムなどが不充分であり、さらに強化が必要である。
おわりに
インドネシアを含む東南アジア諸国の安全保障上の関心とこれに対応するための軍隊の編成は、今後、以下のような要因によって規定されることになるであろう。
・ 排他的経済水域の海洋資源を含む固有の領土の保全
・ 海賊などの不法行為に対する重要な国内のSLOCsの哨戒と防護
・ 国内治安対策の軍事ドクトリンから統合・連合の通常戦戦略への転換
・ 国家の技術レベルの向上
・ 米国の戦力の全体的な後退の埋め合わせ
これらの要因は、必然的に海・空軍の強化に結びつき、多額の国家予算を軍事に振り向けることが要求される。しかしながら、東南アジア諸国は、その目覚しい経済発展にもかかわらず、短期的にはもちろん、長期的にも依然としてより優先度の高い国民生活の向上ための努力を必要としている。
これまで考察したように、東南アジアSLOCsの重要性は、単に地域的な問題ではなく、世界経済全体にとっても大きな意味を有している。幸い、米国は、「航海の自由」の原則やアジアへの関与政策を今後も維持していくであろうことから、冷戦後及び国連海洋法の施行後の新たな環境における関係国の協力体制の構築に、何らかの進展が期待できそうである。もちろん、海洋の自由な利用の最大の受益者であるわが国も、これに積極的に対応することが必要である。