1 東南アジアSLOCsの重要性
(1)貿易ルートと戦略的海峡
来国防大学国家戦略研究所のノア(John H.Noer)は、1993年のデータを基に大掛かりなデータベースを作成し、それによって東南アジアSLOCsの世界経済における重要性を分析している(1)。この中では、世界中の1000トン以上の外航貨物船26,164隻について、船のタイプ、積載量、国籍、所有企業の国籍が判別され、これらの船舶の延べ220万回におよぶ港への寄港を含む航海の状況が追跡された。その結果、このうちの8,842隻が、延べ94,000回にわたって東南アジアSLOCsを通過したことが確認された。これは、世界の船舶の総数の約3分の1、船腹量の約半分を占めている。
アフリカ又はスエズから北東アジアへ向かって航行する大型貨物船は、そのすべてが以下のようなインドネシア群島南部の海峡を通過する。
・マラッカ海峡:スエズ又はペルシャ湾から北東アジアに向かう船舶にとって最短距離の航路であり、英仏海峡に次いで船舶の往来が激しい。航路帯の幅は、東の入り口でもっとも狭く、1.5マイルである。航路帯の水深は、21.1〜22.9mで、これに約10%の船底と海底との間のクリアランスを取ると、喫水制限は約20mとなる。このため、大型タンカーの場合は、満潮時まで潮待ちをして通過することがある。
・スンダ海峡:スマトラ島とジャワ島の間の海峡であり、喜望峰回りで北東アジアに向う船舶にとっての最短距離の航路である。航路帯が複雑で若干の喫水制限があるので、現在では国際的な航路としての使用頻度は少ない。
・ロンボク・マカッサル海峡:バリ島とロンボク島の間のロンボク海峡を通り、その北側ではカリマンタン(ボルネオ)島とスラウェシ(セレベス)島との間のマカッサル海峡を通ずる航路帯である。この航路帯は、インドネシア群島を通ずる海峡の中で、唯一喫水制限がない。東西の船舶の航行には利点が少ないが、オーストラリアにとっては、北東アジアとの間のもっとも重要な航路帯である。
(1)Noer, John H., Chokepoints: Maritime Economic Concerns in Southeast Asia, National Defense Univ.Press, Washington DC,1996