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第1に、この地域の不安定要素はだいたいが海洋に関連している。1996年9月にはサンオ級の北朝鮮潜水艦が東海岸で座礁する事件があった。98年6月にも潜水艦が漁網にかかるという事件がおき、98年は韓国に対する海上からの浸透未遂事件や不審船発見事件が5件も起きている。北朝鮮の工作船の活動の活発化、日本や韓国への海上からの浸透の継続、中国海軍の発展方向からくる海洋の不安要素などである。また、海洋の利用が活発になるにともない、海難事故、海賊、テロ、船の乗っ取りなどが増加の傾向にある。このようなとき、この地域で現在の国際関係を前提とした海洋における協力をすぐにでも始めることができるのは日本、韓国、米国である。そして、韓国はとくに長年の陸軍国としての歴史から、海軍に関しては後発組であるので、韓国は日韓の海洋における協力に熱心になっている。

98年9月に千容宅・韓国国防部長官が日本を訪問したとき、防衛庁長官との間で、日韓防衛交流を強化することで一致した。99年1月に野呂田防衛庁長官が韓国を訪問したときも、「韓国合同参謀本部と統幕、韓国海軍と海上自衛隊との対話を推進すること」で合意した。このとき、海同士の捜索救難の共同訓練を早期に実施することで一致した。航空事故防止のための専用通信回線はすでに機能しているが、それを海同士にまで拡げようということであった。

この日韓の防衛交流の方向の背景には、98年12月、北朝鮮の半潜水艇が韓国領海に侵入したあと、韓国海軍が追跡して撃沈した事件の教訓がいかされているのである。この事件に際して、防衛庁と国防部との緊急の連絡体制の構築の必要が出てきたのであった。そして、3月、日韓審議官級会談において日韓の間の連絡体制の構築について話しあわれたのである。双方が自国の安全保障を考え、この地域の危機管理をどのようにするかを考える過程で、日韓の間のより緊密な連絡体制を構築する必要があるという考えを持つにいたったのである。

第2に、韓国が海洋国家としての活動を活発にしてゆくとき、その経験の豊富な日本のノウハウを期待したり、あるいはより緊密な協力関係を期待することは考えられよう。外国から資源を輸入して、工業製品を輸出して外貨を獲得するという経済を維持している韓国の21世紀の戦略を考えるとき、海洋の活用、安定維持は最優先事項である。今後も貿易立国として、資源輸入国として、また、海外との交流の手段としての海上交通は、韓国にとって死活的に重要であり続けるからである。

第3に、一時的には弾道ミサイルの開発と拡散、輸出、配備により、北朝鮮の脅威は高まるだろう。だが、日本、米国、韓国の政策の協調、日韓の防衛協力の推進、日米、米韓安保関係の強化により、抑止力が増大しつつある。そのため、長期的に見た時、日米韓にある程度の余裕が出てくると海洋をめぐる協力という新しい分野での協力が進むだろう。

そのとき、海洋をめぐる協力分野は、日本と韓国の間で比較的アレルギーが少ない分野である。この点にいちはやく気づいた専門家たちによるトラック2の活動によって、日韓の海洋をめぐる協力はすすみつつある(注12)。99年中に海上における海難事故の日韓の共同訓練が実施される。日本と韓国の間の防衛分野の協力はまず海洋分野から始まっている。

北朝鮮の陸軍の脅威を克服しつつある韓国にとっての防衛戦略、国家戦略は、日本のそれとの共通部分を増大してゆくに違いない。

 

 

 

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